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サトシ先生は妻子を溺愛していない(と本人は言い張る)  作者: 白神ブナ


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第19話 溺愛しすぎて旅に出ようと

 保育園の園庭では、夕方の柔らかな光の中で子どもたちが笑い声をあげていた。

ひなは仲良しの男の子・ゆうくんと、ブランコの前で楽しそうに手を振り合っている。


「ひなちゃん、またあしたね!」


「うん、ゆうくん、ばいばーい!」


その光景を見た瞬間、保育園のお迎えに来たサトシの動きが止まった。


(なんだって?……いま、“ひなちゃん”って言ったよな)


ひながサトシの所に走って来ると、男の子はサトシにきちんと挨拶をした。


「ひなちゃんのパパ、こんにちは! ぼくは、ひなちゃんと仲良しのゆうとです!」


「ゆうとくん、こんにちは。ひなと仲良くしてくれてありがとう」


「うん。僕はひなちゃんが大好きだから、お嫁さんにするって約束したの」


小さな男の子が無邪気な笑顔で挨拶しているのに、なぜかサトシの脳内では警報が鳴り響いていた。


(ビー、ビー、ビー、危険人物発見! 危険人物発見! 駆除せよ)


サトシは、口角を上げながらも、笑っていない目で、男の子を見下ろした。


「ゆうくん、今、なんて言ったかな?」


そして、ゆっくりと前髪をかきあげ、目を光らせた。


挿絵(By みてみん)


「君が言ったその言葉はね、地球を破滅させる呪文と同じ威力を持っているんだよ」


幼いゆうくんは、驚きの声をあげた。


「え……? 地球を?」


「だから二度と、“ひなちゃんをお嫁さんにする”なんて言ってはいけない。

 言葉には力があるんだ……特に“ちゃん付け”にはなっ!!!」


サトシの背後に、なぜか風が吹いた(本人の脳内演出)。

園庭がざわつく。


ゆうくんは涙目になって、サトシを見上げた。


「はい、ごめんなさい……! 二度と言いません」


ゆうくんは、恐ろしさの余り後ずさりして、保育園の先生の影に隠れた。


――その瞬間。


「はぁ? 何してんの、サトシ!!!」


ドスの効いた声が背後から響き、サトシの背中を一撃した。

振り向くと、美柑が息を切らして立っていた。


「園児に説教してどうすんの!? 怯えてるじゃないのっ!」


「い、いや、これは教育的指導で……!」


「うるさいっ!!」


美柑は肘鉄砲でサトシのお腹を突いた。


「ううっ!!!」


園児たちは大騒ぎ。


「「「ひなちゃんのパパが倒れたー!!」」」




その夜。


ソファに沈み込んだサトシは、どんよりした目でつぶやいた。


挿絵(By みてみん)


「俺は……しばらく旅に出る……探さないでください」


「はいはい、どこへ?」


「阿佐ヶ谷商店街……」


「やけに近いな。もっと他に無いの? 余り近いと、探すまでもないわ」


「……北海道……いや、もっと遠く……南極とか」


「南極かぁ。どうせなら、魚がいっぱい取れる相模湾とか、黒潮の流れに乗ってくれないかしら」


「美柑……、俺、漁に出るわけじゃないんだけど……」


「あ、そっか。ごめん」


そこへ、ひながトコトコ近づいてきて、心配そうにサトシの顔をのぞきこんだ。


「パパー、ひなは、ゆうくんと一緒に遊んじゃダメなの? ゆうくんと遊びたい」


サトシの心はちくっと痛んだ。


「……うっ、ダメとは言えない俺がつらい……」


美柑は、ひなを抱きあげて優しく言った。


「しばらく、パパをそっとしといてあげよう。旅に出るそうだから」


「わかったー」


ひなは、美柑と一緒にパジャマに着替えてお布団に入った。



ひなが眠りにつくと、美柑はサトシの所へ戻って来て、少し笑いながらそっとサトシの肩に手を置いた。


「あらまあ、まるで絵に描いたような打ちひしがれ方ね」


「だって……。美柑まで、俺を外洋にまで行かせるし……」


「あれは、話の流れじゃん。黒潮だけに……」


「また、そんなことを言う」


「悪かったわ。だってさ、同じだと思わない? サトシがわたしの父に『お嬢さんを幸せにします』って言ったこと。あの時、父は同じく地球を滅ぼしに来たと思ったでしょうね」


「それ、言うの? 美柑」


「わたし、サトシ先生のことはずーーーっと好きよ。サトシはイケメンすぎ。それと、心配しすぎ」


「え? イケメンすぎは関係ないでしょ」


サトシは冗談っぽく笑って、美柑を抱き寄せた。


「俺が心配するのは当然だよ。だって君とひなは、俺の世界そのものなんだから」


「……もう、わかってるって。毎日聞かされてるよ、その言葉」


「家で言わなきゃ、どこで言うんだよ」


「いいのよ、学校で言っても。わたしは学校では伝説の美女ってことになってるんだし」


「いや、そこそこ美人の間違いだろ。勝手に盛るなよ。……でも、美柑のそいういうところ、好き」


「えっ、今、わたしのこと好きって言った!? 待って、録画するからもう一回言ってー!」


「録画してどうするんだよ」


「ハルちゃんに転送する!」


「やめろーーー!! 卒業生に拡散するな」




 しばらくして、サトシはふと思い出したように言った。


「……そうか。よし、旅は中止だな!」


「あれ? 中止するんだ。せっかくサトシと一緒に海外旅行いけると思ったのに」


「えっ」


「行こうよ、旅行。サトシに合わせて夏休みとるつもりだったのよ」


「そんなお金……」


「あるじゃん。そのために、この賃貸ボロ一軒家に住み続けたんじゃない」


「えー、喜んでいいの? ディスられてんの?」


美柑が笑って手をつないだ。


「いいの。ボロでも、サトシとひなと一緒なら、世界のどこより幸せな場所だもん」


「美柑……惚れ直した」


「そうでしょー。だから、わたしがいればいいじゃん。地球が破滅したって」


「おいおい、物騒な事言うなよ」


「言うよ。何度でも……しゅき、しゅき、しゅきーって」


挿絵(By みてみん)


そんな美柑は、女子高生時代と何も変わっていない。

サトシは、美柑をギュッと抱きしめた。


「ん、何度でも聞くから、覚悟しとけよ」


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