第18話 パパと別れてくだちゃい
「……シンデレラは王子さまと結婚して、幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」
サトシは、ひなを膝に乗せて絵本の読み聞かせをしていた。
すると、ひなが素朴な疑問をぶつけてきた。
「王子さまはシンデレラと結婚ちたの?」
「そうだよ。よかったねー、ひな。めでたし、めでたし」
「めでたし?」
「おめでたい。……うん、幸せになりましたという意味だよ」
「パパは、めでたし、めでたし?」
「え?……めでたしだよー。パパはママと結婚して、めでたしだよー」
「ひなもパパと結婚するんだよ」
「うん、うん、そうだねー。ありがとう。パパは嬉しいよー」
「なんで? パパはいいの?」
「ん? どういう意味かな?」
「王子さまって、シンデレラと結婚しても、よその人とも結婚できる?」
「え? どうしたの、ひな。王子さまは浮気なんてしないから、他の人と結婚なんてしないよ。時代的に考察すると可能かどうかというと……」
「ふたっつは、結婚できないの?」
「そ、そうだね。二人お嫁さんを持つことは、できないね」
ひなは、急にサトシにしがみついて、胸に顔をうずめた。
「どうした? ひなちゃーん」
そのうち、ひなはサトシの胸の中で泣き出してしまった。
「あらららら、ひなちゃーん、どうしたの?」
「だって……、だって、もう結婚しちゃったんでしょー」
「シンデレラと王子さまの話?」
「だって、もう結婚しちゃったんでしょ? パパはどうして? どうして結婚しちゃったの?……ママと結婚したから、ふたっつお嫁さんはできないって……」
「パパの話なの? ひなちゃーん、パパ嬉しいよー。パパはひなのことを愛しているよ」
「でも、でも、……もう結婚しちゃったんだよねー」
「うーーん、そうだけど……」
「ほらぁ、やっぱり結婚しちゃったぁーーー! ひなとパパ、結婚式できないー。ひな、結婚式はパパがいいのー」
「結婚式かぁ……」
サトシは、泣いている娘は可哀そうだが、パパと結婚したがっているのは、正直嬉しかった。
「ただいまー」
そこへ、玄関で美柑の声がした。
「あ、ママだ。ママが帰って来たよ、美柑」
ひなは、サトシの膝から飛び降りると、トコトコと廊下を走って美柑の前までいくと、立ち止まった。
その可愛らしい様子に、美柑は目を細めた。
「ひな、ただいま。いい子にしてた?」
「いい子だけでしゅ! パパと結婚できるのは、いい子だけでしゅ」
「どうしたの? ひなちゃん」
「ママ! パパと別れてくだちゃい!」
「えええーーー!? いきなり、衝撃発言! サトシ! ひなに何を吹き込んだの?!」
「パパのお嫁さんは、ひなでしゅ。ふたっつ、お嫁さんはできないって!」
サトシはひなの後ろに立って、美柑にごめんねのポーズをした。
「パパと結婚式挙げたいんだって。ひなちゃんには、参ったよ」
「そうは見えないけど、サトシ。心から喜んでいるでしょ」
「そんなことない……本当に参っている」
美柑は、謝りながら後を付いて来るサトシが、内心可笑くてたまらなかった。
だが、あえて厳しい顔してみせた。
「そうなんだ。そういうことなら、しょうがないわね。ひな、パパと結婚式、挙げていいよ」
「美柑、ちょ……ちょっと待って」
「ママは祝福してあげる。じゃあねー、バイバーイ」
サトシは焦って美柑の腕を引き留めた。
「バイバイって何。たかがこどもの戯言だろ」
「たかがこどもの戯言だけど、叶えてやろうじゃないの」
「美柑!」
サトシはひなにお願いした。
「ひなちゃん、ママに謝って。お願い……」
ひなの口から、どこで覚えたのか、驚きの言葉が出た。
「よし、ひなとパパが結婚式挙げていいのでしゅ。……勝ったわ」
ひなは、ふっと笑った。
「え? ひなちゃん、悪役令嬢やめて……」
美柑は、泣きそうなサトシの顔を両手で挟んだ。
「サトシパパとひなのフォトウエディング。楽しみだわー」
「え?」
美柑は、ひなをひょいと抱っこすると、いい子いい子した。
「ひな、いい子だもんねー。ひながお嫁さんよ」
「ママは? じゃあ、ママは何になるの?」
「……」
サトシも美柑の後ろにくっついた。
夫と娘に囲まれて、美柑は最高の笑顔で宣言した。
「ママは、悪役令嬢になるっ! 早速だけど、ご飯の支度はしないから、誰かやってよね」
サトシは美柑の腕からひなを抱っこすると、号令をかけた。
「ひな! パパとキッチンに立つんだ。ご飯の支度、手伝ってくれる? パパのお嫁さんだろ?」
「わーった。ひな、頑張る。お嫁さんだもん!」
一週間後、サトシとひなのフォトウエディングが、簡単に行われた。
綺麗なドレスを着ただけで、ひなは満足だった。
美柑は悪役令嬢なので、もちろんこれだけでは終わらない。
ちゃんと悪だくみを実行した。
サトシが寝ている間に、スマホの待ち受け画面を、ひなとの結婚写真に差し替えてやった。
(おーっほっほっほ……。一生拝むといいわ。娘との結婚写真を)
次の朝、サトシはスマホの待ち受け画面を見て誓った。
(この画面、学校で誰にも気づかれないようにしなくては……)




