表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サトシ先生は妻子を溺愛していない(と本人は言い張る)  作者: 白神ブナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/19

第10話 尊さに溺れるサトシ先生

 美柑はソファに座りながら、大学の講義の内容をノートパソコンにまとめていた。


そのとき……


「ただいまー……」


玄関のドアが開く音と同時に、サトシが帰ってきた。


「おかえりなさーい。もしかして、ひなのお迎えに行っちゃってた? ごめんねー。今日はわたしがお迎えしちゃった」


「いやいや、ひな画伯の“今日の作品”を見せてもらうのが日課になりつつあるから、足が勝手に保育園に向いただけ」


サトシはにこりと笑って靴を脱ぐと、真っ直ぐにひなのもとへ向かった。


「ひなー! パパ帰ってきたよ〜! ただいまのチューは?」


「パパー! チュー!」


娘に抱きつかれ、顔中にちゅっちゅとキスされながら、完全にデレモードに突入するサトシ。


「ううっ、尊い……尊すぎる……」


「ちょ、鼻の下伸びすぎじゃない? できればチュッチュする前に、うがい手洗いをしてよね」


美柑が笑いながらキッチンに立つと、サトシはすっと彼女の背後に回り、ぴとっと背中にくっついた。


「……ねぇ」


「ん?」


「がんばった。今日、めちゃくちゃがんばった。だから……」


「だから?」


「なでなでして。あと、褒めて。『おかえり』って言って。できればおやつ付きで」


挿絵(By みてみん)


美柑はくすっと笑いながら、火を止めてふり返った。


「ふふ……サトシ先生、学校ではクールな顔してるくせに、うちでは甘えん坊さんだもんねー」


「外では、威厳ある教師としての顔を守ってるから……その反動が……。お願い、家では先生って呼ばないで」


「だよねー。先生ってストレス半端ないからね、おつかれさま。がんばったね。えらいえらい。ヨシヨシ……」


美柑は、37歳男の頭をなでなでした。


それだけで、サトシの顔がとろけていった。

完全に“犬”だ。


「やばい、もう一生ついていきたい……」


「いや、すでに夫婦だから」


「ありがたい……ありがたい……ありがたみ……」


「語彙力が消えてるよ。もう、わかったから。先にお風呂入ってきて」


「はい、今からこの家の湯船に最も敬意を払って浸かってまいります……」


そう言いながら、スーツを脱ぎ、歩いた先で靴下を脱ぎ、ずるずると洗面所へと向かうサトシだった。


その背中を見ながら、美柑はふっと微笑んだ。


(歩いた通りに脱皮していく……。犯人だったら、手掛かり残して速攻捕まるタイプね)


サトシは、学校では“クールな伝説教師”。

しかし、家では、“ひなと美柑に甘えるだけの男”だ。


そんなギャップ全開なサトシ先生の一日が、今日も無事に終わろうとしていた。




 風呂場には、ひなも一緒にいた。


「パパ〜、アヒルさん、いっしょ、お風呂、アヒルさんいっしょ〜!」


「はいはい、ただ今そちらに参ります……」


湯気が立ちこめるバスルームに、ほのぼのした親子の声が響いた。


陽菜ひな1歳半。

ママに似たのか、言葉を覚えるのが早いおしゃまさんだ。

今日はママではなく、パパと一緒のお風呂タイム。

すでに浴槽の中は、アヒル・じょうろ・バケツ・ペンギンと謎の動物園状態になっていた。


サトシは浴槽にちゃぽんと入りながら、娘と向き合って座った。


「いや〜、このひとときのために働いてるって言っても過言じゃないなぁ……」


「パパ、おしごと、がんばった?」


「うん。こはるちゃんにドア激突されてもがんばったよ」


「それ、なに〜?」


「いいんだ、ひなにはわからなくていい……。それより、ひな、ちゃんとあったまって。風邪ひくとママが悲しむぞ〜」


ひなは、サトシの言葉を聞いているのかいないのか、ふふーん♪と鼻歌まじりでアヒルをぷかぷかさせていた。

その無邪気な笑顔を見ているだけで、サトシの心は癒やされていた。


そして、

……事件は突然、起きた。


「パパー?」


「ん?」


「ママとけっこんしてくれて、ありがとー♡」


「……っ!」


サトシの脳内に鐘の音が鳴った。

式を挙げた教会の鐘に似ていた。


(……ッッッッ!!!)


「……ひな、大きくなったら、パパとけっこんするー♡」


「うわぁあああああああああああああああああああ!!!」


あまりの破壊力に、サトシの理性が吹っ飛んだ。

そのまま背後にのけぞって、ドボン!と浴槽に沈んだ!


ぷくぷくぷくぷく……!!(※湯の中)


「パ、パパー!? おさかになったー!? ……ママ―! パパ、おさかなになったぁ!」


脱衣所にいた美柑は、「おさかな?」と、不吉な予感がした。

慌てて扉を開け、湯船で気絶して沈んだサトシの頭をガシッとつかんで引き上げた。


「サトシ!? なにしてんの!? 溺れてるじゃん!!」


「……っっ、み、美柑……おれ……もうダメかと思った……。理性が……理性が……」


「どういう状況!? いや、意味わかんないから!」


「聞いて……ひなが……ひなが今、『パパと結婚する』って……!」


「え、ひな、言ったの?」


「うん♡ けっこんする〜! パパすきー!」


「……」


「……」


ふたりの大人、顔を見合わせてニヤけが止まらない。


「……ねえ、美柑。おれ、幸せすぎて逆に死ぬかもしれない……」


「生きろ!! まだ子育ては、道半ばだ!」



 それから数分後――

バスタオルに包まれてリビングに戻ったサトシ先生は、今宵も改めて決意した。


「この命、娘と妻のために尽くす」


「嬉しいけど、ほどほどにして」


挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ