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第四話 ヨハンと奇妙な新入生(五)

 この時間も、魔法学部の新入生たちへのオリエンテーションは続いていた。事務室長の愛工一朗(あいこういちろう)による説明は、おもに学生たちが初年度から学ぶことになる、必修科目および選択科目の単位取得に関する内容であった。

 愛工室長の話を聞きながら、キースは隣のタケルに小さな声で話しかける。


「……なあ、このあたりの一般教養課程(カリキュラム)は、ぶっちゃけほかの大学とそんな変わりねえよな、タケル」


「うん、そうだね。魔法学部とか関係なく、鳴城獅賀大の学生たちぜんぶが混ぜこぜになって履修することになるかな」


「英語以外の第二外国語とか体育も必須なのね。あ、私ドイツ語なら楽勝だわ♪」


「あーそっか、そうだよな。ずりぃなニナさん」


「私も、フラ語なら完璧(カンペキ)ラクショーでーす! なんてったって、二ヶ国語話者(バイリンガル)ですので」


 彼らの話を聞いて、デュランも割り込んできた。ドイツやフランスからの留学生であるニナやデュランにとって、日本の大学の初歩的な外国語など取るに足らない「遊び」にすぎない。無論その分、日本語の習得に苦労してきたのだろうが。


「いちおう俺って、関西弁と関東弁のバイリンガルやけど?」

「ほんならうちも、京言葉と田舎語のバイリンギャルどすな」


 大阪出身の猫車(ねこぐるま)英吉(えいきち)と京都出身の宝天寺(ほうてんじ)耀子(あかるこ)が、負けじと主張する。その台詞(セリフ)御影丸(みかげまる)旋風(つむじ)疾風(はやて)の双子忍者が、なかば呆れたような口調で感想を述べた。


「ていうかあんたたち、ホントに標準語使えんの?」

「うむ。一般人との意思疎通も厳しそうにござるな」


 この場にいた全員の心の中に、「お前が言うな」という言葉が浮かんだ。




「……さて、私からの説明は以上となります。引き続きましてこの後は、魔法学部の各教授の方々から専門分野となる魔法学の講義についてのご説明をお願いいたします」


 愛工事務室長の、抑揚がなく長ったらしい説明を延々聞いていた新入生たちは、その言葉に色めき立った。ここに集う若者たちにとって「魔法を学ぶ」ことこそ、この大学を志願した目的そのものだったからである。

 そしてすべての教授たちが、異世界アルヴァルシアから「マグラドゴアの災厄(カラミティ)」によって期せずしてやって来た熟練魔導師(マスターウィザード)。文字通り本物の「魔法使い」である。作り物(フィクション)ではない魔法を体験し、いつかそれを修得することができるとしたら――。これが、心躍らずにいられようか。



バタン!


 力強く扉を開けるその大きな音に、ざわついていた教室が一瞬で静まり返った。愛工室長に代わって入ってきたのは、魔法学部の学部長であり、魔法呪術学を専門とするラドゥー・グリフォス教授である。

 教壇に立ってゆっくりと教室中を見回したのち、この長身なハイエルフの教授はマイクに向かって重低音で語りはじめた。


「――浮ついた気持ちでいる学生が多いようだが、そんなことではこれからが思いやられる。昨日の入学式でも話した通り、ここは魔法の修練の場である。つねに、強い意志と緊張感を持って臨むべし」


 威厳に満ちたラドゥー教授の言葉に、百名以上いる学生たちの間はピン、と張り詰めたような雰囲気に覆われた。さっきまで小声で軽口を叩きあっていたタケルやキースたちも背筋を伸ばし、息を呑んで教授の話に耳を傾けている。


「それでは、私からは学問としての『魔法』について、その概要を述べる。心して聞くように」


 それからおよそ一時間ほどに渡って、ラドゥー教授による魔法学の概説が行われた。ラドゥー・グリフォスは、アルヴァルシアにおいては歴戦の勇士たる存在で、数々の武功を残した伝説の魔導師ということである。その長年に渡る鍛錬と経験に裏打ちされた知識によって、彼は「歩く魔導書庫(リビング・ライブラリ)」の異名を持つほどであった。


「――すなわち、魔法学とは。決して便利な超能力でも、珍奇な大道芸でもない。すべての魔導師が、生涯を懸けて探求するに相応(ふさわ)しい永遠の主題(テーマ)であり、孤高の命題(テーゼ)である」



 講義を終え、ラドゥー教授が壇上から降りようとしたそのときだった。大教室の最端部から、静寂を破るかのような凛とした女学生の声が教室に響き渡ったのだ。


「ラドゥー教授、質問があります!」


(ねえ、キース。あれって――)

(おお、マキムラじゃねえか!)


 それは、先ほどキースがバイクの後ろに乗せてきた新入生の少女、薪村(まきむら)(かたな)だった。真っ直ぐ手を上げていた薪村刀は起立すると、正面から教授の顔を見据えた。


「この場において、質問を求めてはいないが――」


 ラドゥー教授は気分を害するでも苦笑するでもなく、表情をまったく変えぬまま薪村刀のほうに向き直った。


「特別に認めよう。何かね?」


「ありがとうございます、教授。お聞きしたいことは、ひとつだけ。

――――私たちは、本当に魔法が使えるようになりますか?」



 彼女のその質問こそ、大教室にいるすべての新入生が心の底から知りたいと思っていたものだった。薪村刀は臆することなく、それを率直に口にしたのである。


「私は、希望や期待は述べない。虚言(きょげん)諧謔(かいぎゃく)(ろう)さない。その質問に、ただ一言だけ答えよう」


 ラドゥー教授は、教壇の上に重ねていた文書の束にバンッッ! と手の平を強く叩きつけると、これまでで最も大きな声で断言した。



「諸君は、魔法を使えるようになる! 無論ここにいる全員が、である。以上!」



 ラドゥー教授がその言葉を言い終わって静かに退場したのち、教室からパラパラと小さな拍手が起こった。やがてそれは大きな渦となって、歓声とともに大教室を覆いつくしたのだった。

 薪村刀は教授が去った方向に深々と頭を下げたあとで、澄み渡る春の空のような晴れやかな表情を見せた。




続く



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