第四話 ヨハンと奇妙な新入生(二)
「あれ? キース、だれか後ろに乗せてるの?」
タケルは、ハーレーの後部座席に誰かが乗っているのに気づいて言った。
「ん? ああ、コイツは――――」
ジーンズを履いた長い脚を振り上げながら、その人はバイクの傍に颯爽と降り立った。そしてフルフェイスのヘルメットを脱いでかぶりを振ると、腰のあたりまで伸びた黒い髪がしなやかに踊った。キースが乗せていたのは、すらっとした長身の女の子だったのだ。
「悪いな、キース君。助かったよ」
目鼻立ちのくっきりとしたルックスと、健康的に引き締まったプロポーション。そして、自信に満ちたその言葉遣いや背筋の真っ直ぐ伸びた佇まいからは、まるでタカラヅカの主演男優のような気品と風格が感じられる。京都生まれのはんなりとした宝天寺耀子とは、また違ったタイプの和風美人であった。
「いやぁ、べつに構わねぇけどさ。だけど、まさかバイク相手にヒッチハイクする女がいるとは思わなかったぜ」
「今日はたまたま、通学用のバスに乗り遅れてしまったからな。キース君のハーレーを見かけて、これ幸いと声をかけたわけさ。キミのことは、入学式のときに見て知っていたからな」
「そうだったのか。キースはエルフ耳だし、聖騎士の甲冑を着てて、かなり目立ってたからね!」
タケルの自転車の前カゴにいる魔導猫・ヨハンの声に、その少女は目を輝かせて反応した。
「おおっ、ヨハン教授ではないですか! お会いできて光栄です!」
「はいはいどうも。なあに、キミも新入生なの?」
ヨハンは、その少女と慎重に距離を取るようにしながら言葉を続けた。どうやら初めて会った女性からぎゅうぎゅう抱擁されるのに、ほとほと懲りている様子だ。
「はい! 私は、薪村刀と申します。みなさんも、今後ともどうぞよろしく」
そう言って、折り目正しく頭を下げた薪村刀。彼女は、その場にいた新入生らと丁寧に挨拶を交わした。
「ねえ、『カタナ』って日本刀のことでしょ? かっこいい名前ね!」
「ありがとう、ニナさん。くわしいんだね」
「私、ドイツでは合気道やってたの。日本の武道にも興味あるわ」
「彼女は、合気道三段の腕前なんだよ」
ニナの言葉に、ヨハンが付け加える。タケルとキースの脳裏には、来日した日に泥棒の大男を軽く投げ飛ばした彼女の姿がよみがえった。
「ほう、それは素晴らしい! 種目は違うが、ぜひ一度お手合わせ願いたいものだ」
「へー。アンタもなにか武術をやってはるん?」
「私は、『牙刀流』という剣術宗家の末裔だ。国内ではほぼ無名の流派だが、免許皆伝たる腕を正式に認められている」
薪村刀は、猫車センパイの問いに堂々と答えた。たとえ剣はなくとも、その言葉には人並外れて鋭い斬れ味が感じられる。
「ガトー流? メンキョカイデンって?」
「剣術を極めたっていう証明さ。牙刀流っていう流派の秘術を、すべて体得したってこと」
ニナに説明するヨハンの言葉に、薪村刀はうなずいた。
「私が魔法学部を目指したのも、ひとえに己を磨く修行のため。そして、アルヴァルシアという『剣と魔法』の幻想境に憧れを抱いたからだ」
鳴城獅賀大学魔法学部に入学する学生の目的の大半は、魔法を学び修得することである。それと同時に、「マグラドゴアの災厄」によって繋がりが生まれた、異世界アルヴァルシアに対する強い興味を抱いた者も少なからず存在していた。薪村刀も、そんな新入生の一人であった。
「すごい! カタナはまさしく、現代の剣豪だね!」
「その剣技に、この学校の魔法が加わったら……」
「まさに『剣と魔法』の世界の戦士そのものよ!」
「いやー、こういう人、ホンマにおるんやなあ」
ヨハンたちは、女流剣士・薪村刀を口々に称えつづけた。
「それでは、お先に失礼します。私は魔法学部の事務室に寄って、受け取る物がありますので。……送ってくれてありがとう、キース君」
「おう! また後でな、カタナ」
あらためてキースに礼を言ってから、薪村刀はその場を後にした。
「いや、ちょっと待ってよキース。たしかバイクの二人乗りって、免許取ってから一年間は禁止じゃなかったっけ?」
自転車やバイクを駐輪場に停めてから、タケルたちもオリエンテーションの会場となる教室へと急いでいた。
「それがな、タケル。俺はちょうど一年前、高三の誕生日になった当日に免許取っただろ? それから一年経ったから、今日から二ケツも解禁なんだよ。メットもあるから、これからはいつでも後ろに乗せてやるぜ」
「ということはキースくん、今日が誕生日で、十九歳になったってこと?」
「ま、そういうことっすねニナさん」
「えーっ! お誕生日おめでとう!」
ニナは拍手しながら、キースの生誕を祝福した。
「そういえば今日だったね。おめでとキース!」とタケル。
「魔法学部入学と、ダブルでおめでとキース!」とヨハン。
「俺は初対面やけど、ホンマおめでとさん!」と猫車英吉。
「あざっす。えっと、猫車パイセンは二浪だから、もう二十歳っすよね」
「せやから、パイセンはええっちゅうねん!」
続く




