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第三話 ヨハン、入学式に出る(六)

 魔法学部入学式の式次第は鳴城獅賀(めいじょうしが)大学を代表して、(すめらぎ)小百合(さゆり)学長の式辞からはじまった。


 皇学長は、魔法学の権威であるカール・ローゼンクランツ博士とも旧知の間柄で、世界に先駆けて一般大学における「魔法学部」の設置を成し遂げた立役者だ。また、素養さえあれば人間・妖魔人(ようまびと)の別なく魔法学部へ入学することができるように取り計らうなど、柔軟な考えの持ち主としても知られている。


「ってぇことは、妖魔人(フェアリアン)が俺たちの同級生になることもあるってことなのか?」


「そうだよ。『入学審査会』の許可さえもらえればね」


 キースの言葉に、タケルが小さい声で答えた。


 入学審査会は、学長ほか数人の大学関係者・魔法学の有識者によって構成される組織だ。通常の学力試験のほかに、入学審査会による面接のほか、魔法に関する適性検査などが実施される。そのため、魔法学部は試験の結果さえ良ければだれでも入学できる、というものではない。ただし選定基準については、その多くが非公開となっている。


「でもキースくんだってモリソンだって、いちおうエルフの妖魔人(フェアリアン)じゃない」


「まぁそうなんだけどさ、俺的にはアルヴァルシアから転移したての妖魔人(ヤツ)と知り合いになりたいんだよな」


「転移者の中には、イロイロな種族の妖魔人(フェアリアン)妖魔生物(フェアニマル)がいるはずデース! この大学でお会いできるのが、チョー楽しみデース!」


 今後、魔法学部は「マグラドゴアの災厄(カラミティ)」によってやって来た妖魔人(フェアリアン)たちと人間界を結ぶ窓口のひとつとしても機能することとなる。そうした出会いを、キースやモリソンは大いに待ち望んでいるようだ。




《――続きまして、来賓の方々を代表して、ベルリン・フンボルト大学生命科学部教授、カール・ローゼンクランツ様より祝辞をいただきます》


 入学式進行のアナウンスが、来賓代表のカール博士を紹介した。



「新入生のみなさん、魔法の世界へようこそ!」


 登壇したカール博士の第一声は、御年七十二歳のものとは思えぬほどに力強く、覇気に満ちたものだった。


 彼は、いわゆる「魔法」を生命科学に基づく、まったく新しい学問のひとつとして体系づけた、現代魔法学の始祖である。さらに、マグラドゴアの災厄や異世界・アルヴァルシアの研究(たとえば「妖魔人(フェアリアン)」や「妖魔生物(フェアニマル)」の名付け親もカール博士である)、魔法使用の痕跡を示す「マナディール反応」の発見などでも成果をあげており、魔法研究の第一人者として名高い。

 そしてカール博士自身もまた、熟練魔導師(マスターウィザード)としての認定を受けている。


「世界最初の魔法学部が、どこよりも早くこの日本の花東京市に設立されたことを歓迎いたします。そして、みなさんのような優秀な若者を最初の学生として迎えられることを、心からうれしく思います――」


 通常の入学式であれば、来賓の挨拶など真面目に聞いていられないほど長ったらしくて退屈なものだ。しかしカール教授の演説は示唆とウィットに富み、何よりも魔法学を志す新入生たちの心に強く響くものであった。

 魔法という、未知の世界を開拓していく喜びをともに分かち合うことに、ここに集う学生たちは大きな期待と希望をあらためて感じていた。



「ニナ、もしかしてあのカール博士は……」


「うん、そうよ。私のおじいちゃんなんだ」


 ファミリーネームがカール博士と同じことに気づいたデュランに、ニナはにっこり微笑みながら答えた。ヨーロッパのみならず、世界中にその名を轟かせている魔法学博士の孫娘と知り合いになれたことに、デュランは感嘆の声を上げずにはいられなかった。


「それでは、そなたもカール博士から魔法を伝授されておると?」


「まあね。まだ初歩中の初歩だけど」


「すっごーい! さすが、魔法使いの家系だね!」


「魔法使いの家系?」


 疾風(はやて)旋風(つむじ)、双子忍者である御影丸兄妹からの言葉に、ニナは思わず疑問の声を返した。


「左様。拙者たちが忍びの血を引く家に生まれた者として、それを後世に受け継ぐよう切磋琢磨するように、ニナ殿も魔導師の家柄という伝統を残していく定めであるのでは?」


「うーん、それはどうかな……」


「ニナの家って、たしかお父さんはドイツで商社マンだっけ?」


 幼少時、ニナの家に同居していた経験のあるタケルが声を挟んだ。


「そうね。お母さんも、日本語学校の先生と合気道道場の師範をやってるし。べつに、ローゼンクランツは魔法使いの家系ってわけじゃないんだけど」


「それじゃさ、ニナはなんでドイツから、わざわざこの魔法学部に来たの? ヨハン教授の付き添いってだけじゃないんでしょ?」


「ええっと、それは……」


 旋風の言葉に、ニナは考え込んでしまった。たしかに、少なからず魔法と日本に興味はある。兄貴分の魔導猫・ヨハンに付き添ってこの大学の魔法学部に入学したが、将来については漠然としか思い描いてはいなかったからだ。


「ま、すぐに決めなくてもいいんじゃね? ニナの将来が魔法に関係する仕事でも、そうでなくてもさ」


「ソーソー。今は楽しむコトが大事ダヨー!」


 キースの言葉に続けて、モリソンも諸手を上げた。その言葉を提唱したデュランも、大きくうなずく。

 ニナは、隣にいるタケルに向かって無言のまま親指を立てた。その仕草だけで、タケルにはニナの気持ちが十分に伝わっていた。




《――さて、続きましては、新たに魔法学部の講師として勤められる、各学科教授の方々を紹介させていただきます。ラドゥー・グリフォス学部長、そして魔法学部教授のみなさま、順にご登壇ください》


 アナウンスの声に合わせて、ラドゥー学部長以下四人の妖魔人(フェアリアン)の教授が連なって現れた。そして、その最後尾にいたのは――――



「ヨハン・(カッツェ)・シュレディンガー教授!」



 世にもめずらしい、魔導猫の教授の姿に、会場の新入生たちから大いなる歓声と割れんばかりの拍手が送られたのだった。




続く



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