第三話 ヨハン、入学式に出る(五)
拍手しながら現れたその男は、満面の笑みを浮かべて彼らに近づいてきた。
「え、えっと……?」
新たな来訪者の出現に、タケルは動揺しながら言葉を発した。男は肩幅が広くがっちりとした体形で、身長は軽く百九十センチを超えている。おそらく、キースと同じくらいだろう。
どうやらアフリカ系らしく、黒い肌に白の短髪。眼鏡をかけていて、陽気ながら知的な一面ものぞかせる。身体にぴったりフィットした漆黒のローブを、ファッション誌のグラビアモデルのように優雅に着こなしていた。
「ああ、どうも失礼しました。はじめまして。私、フランスのパリから来ました、新入生のデュランです! ジャン=クリストフ・デュラン。よろしく、よろしく、どうぞよろしく」
デュランと名乗ったその大男は、その場にいる全員に対して、親しげに握手を求めてきた。フランス人ながら、かなり流暢な日本語である。
「ねえ、なにが『とれびやん』なの?」
「オー! クノイチさん! 日本に来てすぐに本物のニンジャさんたちに会えるなんて、私とっても感動しています!」
「あー、はいはい。そりゃどうもはい」
「して、貴殿は何ゆえにこの学校を?」
陽キャな旋風&陰キャな疾風という、御影丸兄妹からの疑問に応え、デュランは自己紹介を交えつつ話しはじめた。
「私、子供のころから日本のポップカルチャーが大好きで、アニメやゲームで日本語も覚えました。日本ならではの『剣と魔法』のファンタジー作品、どれもみんな最高ですね。それに、日本人の精神性や伝統文化にも非常に興味があります」
「へー。ウチのヨハンと話が合いそうね!」
「ヨハン教授も、日本大好きっ猫だもんな」
「それで将来は、日本文化に関係した仕事をしたいと思っていたら……なんと……なんと…………」
そう言ってデュランはうつむいたかと思うと、つぎの瞬間、あふれる感情を一気に爆発させた。
「すっごい大学ができるたのじゃないですか! 世界初の『魔法』を正式な学問として学べられる大学! しかも、あこがれの東京に! それで私、一も二もなく、鳴城獅賀大学魔法学部を受験しましたというわけでございますなのです!」
興奮のあまり、すこし話し方がおかしくなってしまったデュラン。一気にまくし立てたため、はあはあと息が上がっている。タケルたちは、初見では大人びて思えた彼の豹変ぶりを興味深く見つめていた。
「…………申し訳ありません、少々取り乱しました」
「じゃ、じゃあデュランくんも、魔法使いを目指してるんだね」
「はい、タケルさん。一流の『デーモニスト』です」
真っ白な歯をむき出しにして、デュランはニカっと笑いつつ言った。フランス語の「démoniste」とはウォーロック、いわゆる男性魔導師のことを指すようだ。
そしてデュランが右手を広げると、その手のひらに長い杖が出現した。彼は杖を軽やかに回転させたのち、得意げにポーズをとった。どうやらデュランは来日する前に、すでに初歩の魔法を修得済みのようである。
「で、さっきの『とれびやん』は?」
「ツムジさんのおっしゃっていた通り。勉強はダイジ、仕事もダイジ。でも、一番ダイジは、人生を楽しむコト。みなさん一緒に、大学生活、楽しみましょう!」
「オッケーイ! そうしまショー!」
高々と拳を振り上げたデュランの背後から、その声に同調するような元気な掛け声が聞こえてきた。タケルやキース、ニナにはすでにおなじみとなったエルフ娘。「モリソン」こと、メアリー・シェリー・エルダーソンである。
「モリソン! キミも入学式に来たんだね!」
「モチロン! ワタシも立派な新入生ダヨ!」
モリソンはそう言いながら、初対面の相手にも自己流のあいさつをした。彼女の肩にはペットの妖魔生物、ポタルン3号が鎮座している。ポタルン3号は、長い耳とほのかに光る尻尾をふりふりさせながら、ミィミィ鳴いていた。暴れん坊のツノデビルは、あいにく今日はお留守番のようである。
「ハイエルフの妖魔人でアメリカ人の魔獣調教師? なんだか属性いっぱいね!」
「これが、妖魔生物のホタルウサギでござるか。なんともかわゆい姿にござるな」
「モリソンさん! お近づきになれて光栄です。これからも幻想境のモンスターのこと、たくさん教えてください!」
旋風に疾風、デュランはそう口々に言いながら、新たに登場した同級生と親交を深めていった。
「ワタシ、魔法学部のミナサンともっともっともぉーっと仲良くなりたいデース。よろしくダヨー!」
「それにしても、なんかすっごく派手な集団になってきちゃったな」
タケルは、目の前に集まった新入生たちの顔ぶれを見ながら感嘆の声を上げた。ドイツから来た新米魔女・仁和、ハーフエルフの聖騎士(仮)・キースに加えて、職業忍者の疾風・旋風兄妹。フランス人の魔導師見習い・デュランに、アメリカンエルフの魔獣使い・モリソンまで――――。
見た目が華やかで実力も確かな彼らに比べると、だんだん自分だけがひどく地味でつまらない存在に思えてきたタケルであった。
すると、そんな彼の肩に甲冑姿のキースががっちりと手を回してきた。そして、その反対側からはニナがすっと顔を寄せて微笑みかけてくる。
「おもしろくなってきたじゃねえか。なあ、タケル!」
「私たち、いい大学入ったよね。一緒にがんばろうね」
「うん!」
幼なじみの二人からの言葉で、一瞬かかった黒い霧が失せ、目の前に晴れやかな道が開けていくのをタケルは感じていた。
《それでは、新入生のみなさま。ただいまより、本年度の鳴城獅賀大学魔法学部、入学式を執り行います。どうぞ、ご着席ください》
会場内にアナウンスの声が響き渡り、新入生たちはそれぞれ指定の席に着いた。これからいよいよ、魔法学部の入学式がはじまる。
続く




