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第5話 口八丁手八丁 名古屋味噌は八丁味噌(力説)

 

 突き出た犬口から犬歯を剥き出し、今も稀人を見据え威嚇する白狼、


 そんな彼を想ってか黒狼人が耳打ちする。

何だよとばかりに顔を歪め舌打ちする白狼は一歩下がり漆黒の艷やかな毛並みの狼が一歩前へ。

 黒き狼人は一度嘆息し。


「噂程度には知っている。鬼人達が神を呼び出し失敗したと。」


「アイヤ〜 オレ ヨバレテ トビデテ ジャジャジャージャン イイヨ イイヨ〜 イイアルヨ〜。」


何が良いのか悪いのか失敗なのか、中身の無い煙に巻く男の言葉に黒狼人は片目をすがめる。


「俺達にとっての神とは祖霊だ。爺婆殿、さらには旧き父母兄弟姉妹。」


「ソウネ ソウネー ダイジ ダイジ アルヨ アリガト アリガト アルヨー」


「貴様は不要。見逃してやる。去れ。」


「ダメヨ ダメダメ ソコハ ダメエエエエエ オレ オマエ タスケル オマエ オレ タスケル タスケテー タスケテー」


「はあ、何を言っているんだ、お前は。」


呆れたとばかりに応じる黒狼と狼人達を前にして稀人はポケットから品を取り出すと黒狼人に向かって、ゆっくりと投げた。

ギョっとする狼人一同、用心の為だろう黒狼はキャッチする事無く一歩身を引く。

砂浜に落ちた紙に包まれた品を狼人全員が注視する。


「アゲル アゲル カミ ツクル ブキ キレ キレ アルヨー エクスカリパー アルヨ〜 ナカヨク シタイヨ アゲルヨ〜」


「はあン?このちっこいのがかよ。」


「ま、待て、さわるなハク!」


「ねえ、ねえよセン。ビビリすぎだっつーの。」


剛胆なのだろう仲間の押止を振り切り紙包みをつかむハクと呼ばれた白狼人。


「軽ッ!」


驚きつつも包み紙をはがし中から現れたのは鈍く光るナイフ一本。


「ほーン どれどれ。」


一頻り眺める狼人達、次にはハクは自身の腕にナイフを当てた。


「ああああああッ!?」


黒狼センはハクの軽挙に顔を片手で押さえ嘆息する。

灰狼人の三人は目の前の光景に、興奮し、苦笑し、アホと呟いた。


風に吹かれ砂浜に白い毛が大量に落ち打ち寄せる波が拐っていく。


「お、俺の腕がハゲたああああッ」

調子に乗った狼男、後悔先にたたず。


アルミ缶を溶かし鋳造し幾度も金槌で叩き鍛え研いだアルミ製ナイフ。

斬れ味は石器とは比べ物にならない。


「ヤル オマエ オレ ムラ ツレテケ」






 海辺、狼人族の漁村が蜂の巣を突いた様にざわついた。

全ては一人の男の為に。

奇妙な身なり、何よりも人族への忌避感。

村長と大人達に囲まれアルミ製ナイフを手に稀人の入村を求める黒狼セン。

ハクは灰狼人の若者三人と共に稀人を見張る。

見張りと共に一族の者達と稀人が諍いに発展せぬ様に。


 しばらくすると話がついたのかセンが手招きする。稀人は大仰に両手を挙げ


「アリガトヨー アリガトヨー」


と大声で周囲の狼人に告げた。

ハク一行に先導され手押し一輪車を押し彼等の生活圏へと足を踏み入れた。

 忙しなく首を左右に振り周囲を見廻す男にハクは両目をすがめる。


「で、何の用があるんだ。」

「おーハッテン ハッテン ハッテン場ぁ!!」


発見したと一輪車を押し歩き出す男、ハクが制止するのも構わず進んでいく。センも合流し皆が男の後を追った。

 土器が並ぶ一角。全てが焼成前の弥生式土器。

ここは狼人族の日用品製作作業場。


「あー良い器作ろうってか?」


呆れた様に尋ねるハク、遠巻きに伺う狼人族。


「アルヨー アルヨー イイツボ アルヨー ツチ クレ ツチ クレ ツクル ツクル」


「はぁ?」


「粘土が欲しいのだろう。」


センより渡される粘土一塊を受取り焼成済み土器にて水溶きする。次には窯場から掻き出し集めた灰を投入し混ぜ込む。

出来上がった灰粘土水に焼成前の土器を漬け込み全面に灰粘土水を塗布した。


「カワク ヤケ カワク ヤケ」


身振り手振り、片言の説明、男の意図を理解できず困惑する狼人達。

だだ一人、センは


「分かった、乾いたら焼けばいいんだな。」


「ヨイ ツボ デキル オマエ オレ サカナ クレ サカナ クレ」


納得いかぬハク、センは男の言葉を吟味する。


「良い物が出来たらな。」


知識と物の交換。

結果次第だと黒狼センは自称神と口約束を交わした。






 “コン コン”

それは指で弾けば硬質な音をたてた。

焼き上がった数点の陶器を前にして文明の発展途上にあった狼人族は唸った。



 この陶器生産技術が後に彼等狼人族、知識を伝えた神を自称する詐欺師の運命を大きく変えてしまうとは、誰もが理解していなかった。


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