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第0話 始まりの始まり 始まりの終わり


「誰かを待って居るんですか。」


 「多分、、、きっと、、、そうなのだと想いま            

 す。」


 忘れえぬひと


 誰彼時たそがれどき。その表情は朧気な記憶




 人生に後悔は無いか。自分は有る。多々有る。

後悔の連続だ。

 触れた温もり、次には愕然とする。

交通量の多い国道交差点、くたくたに疲れた体で翼マークの付いた原付二輪を赤信号に従い停めた。

 視線の先、それに心乱され逡巡した。

兎に角と原付を降り後続の車に向かって片手を挙げ会釈一つ、次には駆け寄る。

それに触れ、その温もりに安堵した。

だから覗き込んだ。

 キジトラのとても幼い子猫。

 だったもの。

曲がってはいけない方向に曲がった下顎。生気の抜けた瞳。柔らかな毛並みの小さな体は微動だにせず。

 そして、ほんのり温かい。

どうする事もできず車道と歩道を隔てる植栽に、その小さく可愛らしい体を横たえ、俺は原付に跨る。

 

  俺に何が出来る?


せめて穴を掘って埋めてやれば?

馬鹿。明日も仕事だろ。

日給一万円、俺だって生活がある。

信号が青へと変わる。

両手を合わせ祈ってやる事すらせずアクセルを開けた。金が無い、学がない、資格もスキルも無い。自分一人、生きて行くのが精一杯。

 心のゆとり無く、日々流されるままに生きる。


 強くなければ生きていけない

   優しくなければ生きていく資格が無い


小説 プレイバック

   レイモンド・チャンドラー作


強くも無く 優しくもない。

自分の弱さに慚愧ざんき募る。


 男として生を受けたなら

     男らしく生きたい

      きっと明日も明後日も変われない

 死ぬ、その瞬間まで変わらない。




 単調な日々は続いていく。

土曜日、半ば強制の休日出勤。地方都市、国道立体道路。初冬の風を頬に受ける横では夕暮れの景色が流れていく。

いつもの光景、いつもの場所。

 綺羅めく光の輪、廻る廻る、観覧車。

きっと恋人達や家族が、あの場所で今も時を過ごして居るのかと考えると寂しさが募った。

 何故だろうかウィンカーを左へとだし立体道路を降りていた。

 ほんのささやかな幸福。

他人の幸せな時間を眺めれば自分もまた少しは少しだけは同じ時間を共有できるかもしれないと、思ってしまった。

 河川公園、生憎と人はまばらで季節がら寒々しい。ハァと吐く息は白く。それでも見上げる観覧車は綺羅綺羅と輝いて寂しくも美しい。


 「綺麗   です  ね」


涼やかに暖かく 冷静に情熱の籠もるアルト

 その声は男の耳朶を打ち、心震わせた。

 わずかな忘却、次には横を振り向く。

ベンチに座り観覧車を見上げる妙齢の女を凝視する。

 しばし観覧車を見上げる女を見つめる。

何故か何故だったのだろうか

 「誰かを待って居るんですか。」

尋ね後、ハッと我に返り男は次の言葉に詰まった。

 ベンチに座る女は観覧車から視線を男に向ける。

 しばしの沈黙。

 「多分、、、きっと、、、そうなのだと想います。」

 誰彼たそがれの空 互いの顔はよく見えない。

 それでも、それでも、彼女は何処か寂しそうに微笑したように男には見えた。

「あ、あの、すいません、その、突然声をかけたりして。」

しどろもどろになる男、女は誰彼の空を見上げる。

 「降って 来ましたね。」

女の言葉に釣られ男もまた天を仰ぐ。

 その日 その時 初雪が降った


「私を見つけてくれて、ありがとう。」


 耳に残る女の声 残響のアルト

視線を降ろしベンチを見れば彼女は、もう居ない。

男は、しばし呆然とし後に周囲を見回す。

降り出した雪、子供の手を引き歩く両親。

さらりとした雪粒がアスファルトに触れて融けて消えたかのように彼女は消え去った。

男は無人のベンチを見つめ続けた。

 二十八の冬 観覧車の下 一人たたずむ




 築六十年超 家賃¥38000 平屋の借家

古い家は冷たい隙間風が入り込む。

 初老の男は硬い万年布団に横たわる。

氷河期世代 団塊Jr


孤独な男の孤独死。

意識途切れる、その瞬間。

永遠の刹那 冷え切った室内を暖かく柔らかな風が吹き抜けた。


   “ GODDESS(女神の) BURESE(息吹)


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