74,ちょっとした噂
「……ふぅ」
とりあえず、今日は練習は午後からだった為、何とか練習メニューをこなす。
しかし、疲れるものは疲れるもので、俺の身体はあっという間に悲鳴をあげていた。
夏休みにこんなことをやっている影響もあるが……夏休みの間あまり身体を動かさなかったつけが今ようやっと来たということか。
「うう……どうしてコイツらはこんなにも簡単に身体を動かすことが出来るんだよ……少しコイツらが羨ましいぜ」
少し休憩しているが、アイツらは今でも特訓中。
……どうしてコイツらはこうも体力が有り余っているのだろうか。
その体力、俺にもくれよ。
「大丈夫ですか?」
そんな時。
空が俺の近くにまでよってきた。
夏ということもあり、沖縄にいるということもあり、空は白いワンピースに身を包んでいた。
帽子は麦わら帽子を被っており、何と言うか……清楚なお嬢様と言った感じを演出しているかのような感じで、俺の心をグッと掴んだ。
「ああ、ちょっと体力がない自分を情けなく思ってるだけだ……みんながあれだけ体力があるのが正直言って羨ましいぜ」
俺は思ったままのことを口にする。
すると、空はそんな俺をフォローするかのように。
「そんなことありませんよ。私があの練習メニューをやっていたら……すぐにバテて動けなくなってしまいます」
「そうか? 空だったら追いつけると思うけどな……」
「いえ、さすがにあの練習メニューですと、本当に身体がもたないですよ……瞬一さんの言うとおり、お姉ちゃん達がついていけてるのが本当に驚きです」
空もそう思っていたのか……。
今回、この合宿における練習中、どのタイミングで休んでも構わないことになっているが。
実の所、葵達はここまで休憩を一回か二回しか挟んでいない。
これが何を意味するかおわかりだろうか……すなわち、その程度しか休憩しなかったとしても、十分に追いつける体力を持っているということだ。
こんな沖縄の海まで来ているから、かなり気温が上昇しているのは分かっているだろうに……。
「ところで空。アイミー達はどうした?」
「アイミーンさんと月夜さんですか? お二人なら先に別荘の方に行って休んでますけど……」
「ここは日差しが強いからな……空は休んでなくていいのか?」
「私はもう少し皆さんの練習を見てから旅館の中に入りたいと思います」
……空は、笑顔を含めてそう言った。
何だか空の笑顔ってのは年の割に綺麗なんだよな……。
きっと将来は美人に成長するんだろう……葵を通り越して。
「ん? あの二人はすでに別荘に戻ってるのか?」
「お、晴信。お疲れさん」
「お疲れ……正直ちっと休まないと無理だな、こりゃ」
空と二人で話している所に、晴信が割り込んでくる。
晴信の様子を見ると……かなり汗ダラダラ。
相当激しい練習をしていたに違いない。
「まったく、刹那の奴……俺に対して容赦、しないんだから……」
「……照れ隠しなんじゃねえの?」
「そうだといいんだけどよ……」
実は晴信と刹那の二人は、今では恋人同士となっている。
これは晴信達に関わる人は誰もが知っていることだが、校内でも知っている人物は割と少ない方に入る。
ちなみに、今回沖縄にやってきた人達はみんな知っている。
「しかし……この別荘、幽霊が出るって噂だぜ?」
「幽霊……ですか?」
「ああ、そうだぜ空ちゃん。あの旅館、昔はとある貴族の家だったらしいんだが、その家を改装して石塚が別荘に仕立て上げたらしいんだが……」
「……その話し、誰に聞いたんだよ」
「うん? 来る途中に石塚のSPに聞いた」
「どんだけ話し好きのSPなんだよ……」
とりあえず俺はそのSPに若干呆れつつ、晴信の話を右から左へ聞き流していた。