72,宮澤晴信の決意
Side晴信
「どうして……晴信が? それに、その子は……?」
「この子は俺にラヴレターをくれた、小松彩夏って女の子。高校一年生だ。お前に話しがあるっていうから連れてきた……ほれ刹那! 一旦俺達は部屋から出るぞ!」
「え? ……え?」
理解しきれていない刹那の腕を掴んで、俺は無理矢理部室から出す。
そして入れ替わりに彩夏を入れて、俺は部室の扉を閉めた。
「……どういうこと?」
早々、俺は刹那にそう尋ねられた。
俺は答える。
「……そういうことだ。あの子は俺に告白してきたわけじゃなかったんだ。あの子はただ、俺にスポークスマン代わりになれって言ってきたようなもんだ。だから俺は、あの子に言ってやった。伝えるなら、本人の口から言えってな……そうでもないと、人の想いってのは心に響かないんだ」
「……晴信先輩の癖に、いいこと言うじゃない」
「一言余計だっての」
刹那の反応が、大分いつも通りになったものだから、俺は若干嬉しさを感じる。
それがまた刹那にとっては不気味だったみたいで……。
「何ニヤニヤしてるのよ。まさか変なことを考えてるんじゃないでしょうね!?」
「こんなタイミングで考えるかよ。さすがに俺だって場の空気くらいは読めるっての」
とりあえずそう言っておく。
そりゃあいくら俺が変態だからと言って、シリアスな場面で変な想像をすることなんて……あったかもしれないな。
「それで……アンタはどうしてあの子をわざわざ連れてきたりしたのよ。別にアンタがスポークスマンに使われそうになったからと言って、何もいきなり連れてくることはないんじゃない? 多分その子は結構恥ずかしがり屋なのに……」
「そうしないと、そうしないと瞬一も女の子も可愛そうだから……互いの心が完全に合っていない状態でいきなり恋人同士にされたらたまったもんじゃない。それこそ、周りの奴らも、当人達も不幸に陥るだけだ……だから俺は、あの子を瞬一のところまで連れてきた。決着をつけさせるためにも、な」
……ここで告白してしまった方が、小松ちゃんの為にもなる。
恐らく小松ちゃんは、今回の告白で瞬一に振られるだろう。
だから、そうなった時に……新たな恋を見つけてほしい。
しばらくの間は傷ついて立ち直れなくなるかもしれないけど。
それでも小松ちゃんはまだ高校一年生だ。
残り二年も学園にいることになるし、第一人生ってのは結構長い。
だから、この方が……良かったんだよ。
「……それにな、俺、もしあの子が俺に告白してきてたとしても……多分振ってた」
「……え?」
刹那が意外そうな表情を見せる。
まぁ無理もないか……いつもの俺をみてると、あれだけの美人に告白されたものなら、即座に頷くのではないかと思うもんな、普通なら。
「けど、俺は振ったと思う……何でだと思う?」
「え、えっと……その子に振り向き切れなかったから?」
「そういう表現をする刹那はやっぱり正直というか、勘が鋭いと思う……なぜなら、少し心が傾きかけたからな。けど、そこで俺は心が傾かなかった。それはな……」
これだけは、刹那に伝えないと。
もし告白されていたとしても、その子を振っていた、その理由を……。
「……小松ちゃんに告白された時、一瞬俺の頭の中に、お前の悲しそうな表情がよぎったからなんだよ」
「!?」
「……どうやら俺、お前のことが気になって仕方がないみたいなんだ……」
……刹那には迷惑かもしれないけど。
だけど、この胸の内は明かしておきたいから。
……このタイミングで言うのも、まるで流れで言ってしまったかのような感覚を感じるけど、言えるなら今しかない。
「……俺、お前のことが、好きなんだ……刹那。お前のことが好きで、仕方ないんだ!!」
「!! ……卑怯よ、晴信先輩」
「え?」
俺の告白を聞いた後に、刹那が涙目でそう言う。
……泣いて、いるのか?
「卑怯よ……晴信、先輩……!!」
「うおっと!」
ドン!
でかい衝撃が俺の身体に響く。
それは……刹那が俺の身体に飛びついてきて、そして……俺の唇に刹那が自らの唇をあててきたからだ。
……唇と唇が合わさる?
これってまさか……キス!?
「……ぷはぁ」
時間にして、およそ3秒の短いキス。
だけど、体感時間はかなり長かったと思う。
初めてが……刹那。
刹那とファーストキスを、交わしてしまった……。
「……本当は先に言うはずだったのに……ファーストキスの責任、とって、くれるわよね……?」
「あ……ああ」
それが刹那なりの遠まわしの告白なんだと気付いた時。
俺の心は、何だか満たされたような感覚を感じたという。
それは、心から願ってた幸せ。
いつしかやってきてほしいと思っていた、ささやかなる、幸せ……。
次回予告
「合宿in沖縄!!」
「ひゃ~広い海だなぁ」
「しかしここでどうやって練習なんてするんだ?」
「この旅館、幽霊が出るって噂だぜ?」
「幸せって、こういうことなのね……」
「何があっても、私を守ってくれますか……シュンイチ」
「いっやほ~う!!」
「テンション高いっての!!」
「お前達みたいなやつに、俺も出会いたかったな……」
次回、『夏合宿』編。