70,告白……?
Side晴信
結局、そのまま放課後がやってきてしまった。
何も考える暇もなく、ただ時間だけが過ぎて行き、気付けばもう引き返せないところまで来てしまっていた。
今更引き返すなんて真似は、晴信には出来ない。
正真正銘、ここで決着をつけなくてはならないということだ。
「……よし」
屋上に続く扉を開き、そして俺はその第一歩を踏む。
……しばらく歩いたところで、黒くて髪の長い少女が後ろを向いているのが見えた。
……恐らく、この子が俺にラヴレターをくれた少女。
「……君が、俺に手紙を?」
そう問いかけてみると、その少女は俺に初めて顔を見せてくれる。
……美人だった。
黒い瞳が、俺の顔をじっと見つめる。
可愛いよりも美人が似合う……まさしく、大和撫子。
着物なんか着てみたら似合うんだろうな……などと言う想像をしてしまった程であった。
「は、はい。私です。小松彩夏です」
この子が、小松彩夏ちゃんか……。
一年とは思えない程の綺麗さで、本当に後輩なのかどうか疑いたくなってきてしまう。
「それで……俺に話しがあるってことだけども」
「……はい」
緊張の空気が流れる。
……今この場には俺と小松ちゃんの二人しかいない。
そして、この雰囲気は……もしかして、告白?
いやぁ俺もすっかりモテる男になっちまったもんだ。
こんなにも美人な子に告白されるのだったら、俺はもう死んでもいいかもしれない。
……けど、何故だろう。
こんなにも気持ちが舞いあがっているのに、心の底から喜べないでいる自分がいるのは。
何か心に引っかかる物があるんだ……ずっと、昨日から心に引っかかっている、何かが。
「……あ」
そうか。
刹那が俺に見せた、悲しそうな表情だ。
俺はその表情を見てから、なんとなく心に引っかかる物を感じてたんだ。
……そして、そんな表情を見たくはないと思う自分がいる。
……この気持ちは、何なんだ?
今まで様々な女子を見てきたけれど、こんな感情を抱くのは生まれて初めてだ。
……けど、目の前の少女は俺に告白をしようとしている。
だけど、俺の心はこの子に向いていない。
……どうする、ここで俺は、この子を振るのか?
……それがいいだろう。
この子の為にも、刹那の為にも、そして何より、自分自身に嘘をつかない為にも……。
刹那に心が傾いているとまではいかないが、少なくとも今の俺はこの子に心が傾くことはない。
だから、俺はどんな言葉が来ても断ろう。
それが……一番の方法なのだから。
「私……貴方のことが……!! 貴方のことが、好きなんです!! だから……付き合ってください!!」
……お辞儀をしながらの、そんな言葉。
待ち望んでいたとも言える、その言葉。
だけど、俺はこの言葉を……。
「俺は……お前のその申し入れを……」
「……という言葉を、三矢谷先輩に伝えてほしいんです」
「受け入れ……って、何だって?」
……今、最後の方に変な言葉が混じってたような気がするんだけど。
……何、何で『ミヤタニ』なんて言葉が出た?
「ミヤタニって……瞬一のこと、なのか?」
「……はい」
「……まさか、この手紙は、瞬一にお前の気持ちを伝えさせる為のスポークマンとして、俺に言うように頼みこむ為に、わざわざこの手紙を下駄箱に?」
「……はい。直接言うのが恥ずかしかったので、宮澤先輩はいつも三矢谷先輩のそばにいると聞いたので……」
……なんてこった。
なんて結末だ、これは。
「俺の……俺の純情を返せぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
小松ちゃんがいるそばで、俺は天に向かって……そう吠えたのだった。