69,心
Side晴信
そして、そんな悩みに葛藤すること、一日が経過。
とうとう約束の期日がやってきてしまった。
昨日まではどんな奴がラヴレターをくれたのか気になっていたが、今日になってからは何となくその気も失せてしまった。
別に冷めてしまったわけじゃないんだ……だけど、ラヴレターのことを考える度に、どうしても刹那の悲しそうな顔が、脳裏に浮かんでくるんだ。
「俺、どうしちゃったんだ?」
こんなにも変に考え込んじまうなんて、俺らしくもない。
いつしか瞬一が行方不明となった時と同じで、何か心に引っかかるような、そんな感じがしてならないのだ。
「……まさか刹那が俺のことを好きでいるわけないしなぁ」
だって、俺はいつも刹那にど付かれてるんだぞ?
……いや、ちょっと待てよ。
同じど付かれるなら、石塚にだってど付かれてるぞ?
けど、何だか二人は同じことをしていても、違う感じがしてならないんだよなぁ。
石塚の場合は明らかなる敵意を感じるけど。
刹那の場合は……あまりそれを感じない。
……いや、これは俺の単なる気のせいかもしれないな。
本当はどっちも変わらなくて、実は俺の勘違いでした、なんてオチになると少し哀しい。
「……よぅ、悩んでるか晴信」
「……瞬一か。それにアイミーンも」
「こんにちは、ハルノブ」
その時。
一緒に登校する瞬一とアイミーンの姿があった。
……って、一緒に登校?
「どういうことなんだ?」
「どういうことと言われても……偶然近くで会ったから、一緒に登校してきただけだけど?」
「ええ。私が今泊まっているホテルというのが、この学校の近くにあるんです」
「なるほど……」
滞在中にホテルに泊まるとは……さすがは一国の王女様。
おっと、そんなことを言ってる場合じゃなかった。
「んで、悩んでるかってどういうことだよ」
「言葉通りの意味だ。お前、今日ラヴレターをくれた女の子に答えるんだよな?」
「……ああ」
「……なら、いいんだ。無理やり先延ばしにするよりも、すぐに答えを出してあげた方がいい。その方が、その子の想いを踏みにじらなくて済むからな。先延ばしにされればされるほど、その女の子だってどんどん不安になってくる。そして忘れるんじゃねえぞ……お前の周りには、お前のことをしっかりと見てくれている女の子がいるってことをな」
「シュンイチ……」
……俺のことを見てくれている、女子。
今まで俺は、女子からはあまりいい目で見られたことがなかったような気がする。
……もっとも、普通の男子と同じような目は向けられていたけど、それ以上の目(例えば大和とかに対する女子の視線とか)で見られた覚えは一度もない。
それじゃあ、もし瞬一が言った通りそんな女の子がいるのだとしたら、その子はかなり物好きなんだろうなぁ。
「……なぁ瞬一。お前ならこういう時どうするんだ?」
「……悪い、俺には……無理だ……」
「え?」
無理だと?
そんなはずはないだろ……何せ人ってのは何かを決めることが絶対の筈。
なら、瞬一だってもしラヴレターを受け取った時には、受け入れるか断るかのどちらかの選択をしなければならない筈。
それが……無理だと?
「いや、答えることは簡単だ。けど、それじゃあお前の為にならないんだよ……これはお前の問題だ。なら、人に聞くのはここまでじゃないのか? 後はお前が悩んで決めろ。俺から言えることは、ここまでだ」
「あ……」
それだけを告げると、瞬一はアイミーンと一緒に校内へ入って行ってしまった。
「ああ……欲しいなぁ……俺も」
去り際に瞬一がそんなことを言ったものだから、アイミーンが少し悲しそうな表情を浮かべていたのは、はたして気のせいだったのだろうか。