65,戦闘後
「ハァハァ……」
疲れた。
この上なく疲れた。
今日ほどクタクタになった日もなかなかないだろう。
……周りを見回してみると俺と同様に明らかに疲れきっている奴らばかりだった。
いや、もう冗談抜きで辛かった……これだけ暴れまわったのも、久しぶりなんじゃないだろうか。
「おい、まさかお前、まだ動けるとか言うんじゃないだろうな?」
「冗談言うな……俺はもう満身創痍だ。これ以上はもう動けねぇよ。お前こそまだ動けるとか言うんじゃねえだろうな?」
「冗談……俺だってもう身体が動きやしねぇよ。あれだけの死闘繰り広げといて、まだ戦うだけの体力が残ってるとか……どんだけ体力あるんだって問題だぜ」
もはや、俺にも相手にも体力なんて残っていない。
そんなのは百も承知……当り前のことでもあった。
他の奴らも、どうやらもう動く気はほとんどないらしい。
そんな中でも堂々と立っていられる大和と大地は、さすがは『組織』の一員であるなと感銘を受けた。
「まったく……一時はどうなるかと思ったぜ」
「本当よ……これだけ疲れた戦いなんて、二度とないわよ」
啓介と北条が、ほとんど嘆くかのようにそう呟く。
本当に……勝つか負けるか分からない戦いだった。
あともう少し俺達が弱かったら。
あともう少し俺達が油断や隙を見せてたら、俺達はひょっとしたらここで負けていたかもしれない。
……相手も全滅に追い込んだが、こちらもすでに満身創痍。
ある意味で引き分けに近い勝利と言うべきだろうか。
それでも勝てただけ十分にだと思うけど。
「……後は校長が来てくれれば、すべて解決ってか?」
「そういことになるね。校長と君達の組織が話しをつけて、それでこの事件はようやっと幕を閉じることになるね」
「……」
けど、この男達と校長で話をさせて、本当にまともな会話が成立するのだろうか。
ついさっきまで敵視していた相手に、そう簡単に和解なんて出来ないだろうと思われるけど。
「……これですべてが終わったなんて思ったら大間違いだぞ、そこの男。俺達は別に、校長の所に行って謝罪するわけじゃねえんだからな」
「けど……この戦いは間違いなく君達の負けだ。人質のいない今、今度はこっちの言うことを聞いてもらうよ」
「誰がお前らの言うことなんて……」
「……仕方ない。乱暴なやり方だけど……」
「……?」
ゆっくり、大和は教室の扉の近くまで歩いていく。
そして、倒れている少女の身体を起こし……その首筋に、剣の刃を突きつけた。
……って、大和?
「お前……何してるんだよ……」
「……リーダーとしてやるべきことが何か、君なら分かるよね?」
「……俺達と同じ方法を取ろうってか。しかもこちらは満身創痍で、魔力も伊達に残されちゃいない。だから抵抗することも不可能ってわけか……さっきの俺達よりもいい立場してんじゃねえかよ」
「もちろん。それらも分かった上でのこの行動だからね」
……大和。
お前、そこまでして……。
自分が悪役演じて、そして相手に投降させようとするなんて。
……さすがだよ、お前。
どこまでも、いい奴だよ、本当に……。
「……仕方ない。俺達の完全なる敗北だ。後で校長室に行って、今までのことを白状してきてやるよ。通り魔事件の件も、な」
「……その前に教えてくれ。お前達は、本当にこれが、正しい行いだと思ってたのか?」
俺がそう尋ねると、リーダーの男は無表情の顔をこちらに見せて、
「……ああ。少なくとも俺は、そう思ってた」
そう、答えたのだった。