57,証拠不十分
Side???
「……余計な真似をする奴らが現れたか」
男は、椅子に座り、舌打ちをした後でそう呟く。
ここはとある空き教室……彼の他にも男女問わず二十人程はいるのではないだろうか。
彼らは皆一様に、何かしらの動きを見せていた。
ある者は武器を磨き、ある者は魔術の練習をして、ある者は来るべき戦闘に備えて体を休める。
それぞれやっていることにまったく共通性は見られないが、彼らが目指すところは同じである。
「こんな理不尽なシステムを作り出したこの学園に……復讐を」
彼らが目的としているのは、自分達が通っている学園に対する復讐であった。
希望を持って入学したはずのこの学園に対する……復讐だった。
「ここの校長先生を許すわけにはいかないわ」
「アイツは鬼だ、悪魔だ……人間なんかじゃねえ」
「絶対に俺達がこの学園をひっくり返してやる……これは俺達からの、宣戦布告だ」
彼らは時を待つ。
復讐を始める……その時を。
「その前に、余計な真似をしている連中をどうにかするべきでは?」
ここで、一人の男子生徒がリーダー格の男に向かってそう提案をする。
すると、
「……確かにその通りだな。俺達のことを嗅ぎ回られる前に、こちらから手を打つことにしよう」
「それじゃあ具体的に……どうするんですか? まさか、このまま口封じを……」
「そうだな。口封じが一番効果的な手だが、殺すわけではない」
「……どういうことかしら?」
別の女子が口を挟む。
そんな女子に対しても顔色を一切変えずに、男はまずこう尋ねた。
「嗅ぎ回ってる連中は、三年S組の、しかも中心人物達は魔術格闘部の奴ら、ということでいいんだよな?」
「え? あ、はい。そうですけど……それと何か関係が?」
「大有りだな」
ガタッと椅子から音がする。
男は椅子から立ち上がり、そして教室の中央まで歩いてくる。
そして、ぐるっと教室内を見渡して、それからこう言った。
「今から言う人物を拐ってきて、それからS組の奴らにこう伝えてこい……『お前ら魔術格闘部の後輩は預かった』てな」
男がそう言ったが、周りからは反対意見は出なかった。
そして彼らは、教室を出ていき、行動に移った。
「……さぁどうでる、三年S組の連中共め」
男は不敵な笑みを浮かべて、それから再び自らの席である黒板の前の教壇に向かう。
そして椅子に座り、目の前に置かれている地図を見て、再び笑った。
「……情報ってのはなかなか集まるものでもないんだな」
これだけ歩いて回ったのにも関わらず、収穫はゼロ。
事件現場に偶然立ち会ったようなやつなんて、探しても見当たらなかった。
きっと、犯人グループのリーダーは頭がいいんだろうなぁ。
誰だか知らないが、よほど頭が回る奴なんだと思う。
「しっかし……不自然だよな」
事件現場となったはずの場所に、目撃者が誰一人としていないなんて。
しかも、被害者からは事件当時の記憶がごっそり抜かれている。
よほど頭のよくて、魔術に長けている奴がリーダーなのだろうか……その前に、奴らは何故生徒に危害を加える必要がある?
分からない……奴らが何を考えているのか分からない。
「どうしろってんだよ……まったく」
証拠が揃わない以上、調査もすることが出来ない。
どこかに穴はないのか……穴は。
そんなことを考えている時だった。
「……おい」
「ん?」
俺は、一人の男子生徒に声をかけられた。




