56,調査開始
「通り魔事件だと!?」
俺は、そんなことはあり得ないと考えていた。
なぜなら……前回の通り魔事件の犯人であった由雪迅は……すでにこの世の人ではなくなっているからだ。
同様の通り魔ということは、手口もまったく同じということに繋がるのではないだろうか?
「いや、今回の事件は妙なんだ……」
「何が妙なんですか?」
大和の呟きに、春香が反応する。
他の奴ら(もちろん俺を含めた)も、その言葉がどういう意味を示すのかが分からなかった為、俺達は大和に疑問の眼差しを向ける。
すると、大和がこう答えた。
「今回の事件で狙われているのは、B・A・S組の人達や、教師陣が狙われているケースが多いんだ。しかも今回の通り魔は、背中から斬りつけてくるのではなく、複数の魔術による攻撃の痕が残されていることから……今回の事件は、複数犯による可能性が高いんだ」
「なんだって!?」
複数犯で、一人の人間を襲うだと!?
……あり得ない、そんなことする奴らは、正気なのか!?
何の罪もない人間を次々と傷つけていくなんて……。
「学年は問わないで今の所は奴らも行動しているらしい。だから、気をつける必要があるよ……いつ僕達の所に来ても、おかしくはないという状況なのだからね」
まぁ、確かにS組に所属するような連中だったとしても、複数の奴らに襲われてしまえば何にも出来なくなっちまうよな。
それが例え、大和程の使い手だったとしても、だ。
「まったく、面倒な事件が発生したもんだな……」
「……ところで、前のような通り魔事件って言ってたけど。前にも通り魔事件って起きたの?」
そこで、月夜が俺にこんなことを尋ねてくる。
……ああ、そうか。
月夜は転入生だから、前の通り魔事件を知らないのか。
「とりあえず今度その話しはしてやるよ。一応言っておくと……首謀者は由雪迅って奴だってことだけだな」
月夜には首謀者の名前だけを伝えておいて、とりあえず詳しい詳細については後で教えることにしよう。
今は今回の通り魔事件についてだ。
「それで、犯人の目星とかはついてるのか?」
「……いや、それは全然。複数犯の上、統率力だけはきちんとしているみたいでね。魔術による攻撃の痕以外には何も残っていないんだ」
「まったく面倒なことをしてくれるもんだぜ……」
大和と大地が若干落ち込んだようにそう呟く。
そんな大和の表情を見て、北条が。
「大和君……そんな顔しないで。私達が力を合わせれば、解決出来ない事件なんてないのだから! (^-^)」
「……これで顔文字さえなければ完璧なのだがな」
晴信がこんなツッコミを入れる。
北条にしては珍しくまともなセリフかと思いきや、最後の最後でこれか……。
やはり北条にはシリアスなんて似合わないのかもしれない。
「とりあえず、事件の犯人の方は僕達の方で何とか調べてみるよ。何か分かったら瞬一達にも知らせることにする」
「こっちでも事件については調べておく……互いに分かったことがあったら、どんなに細かいことでも知らせるということでいいな?」
「ああ」
大和と俺の間で、とりあえずこんな約束を結んでおいた。
……さて、通り魔事件の調査開始だ。