54,仲間
「ここまでくればもう平気かな……」
あの後僕達は、別の公園まで走ってきた。
そして、さっきの公園と同じようにベンチがあった為、そこに座って疲れた身体を何とか休ませているという状態だ。
隣に座る由良は、少し呼吸が荒い。
無理もないか……いきなり走らされたのだから。
おまけにさっきの男達三人組に囲まれた後で緊張状態にあったというのに、こんなだもんな。
いくら走らせたのが僕とは言え、申し訳ないことをしたような気持ちになる。
「ごめんね、由良。あそこではああするしかなかったんだ」
「い、いえ……こちらこそ、ありがとうございます……大和君」
ペコリとお辞儀をする由良。
……そこまでのことをしたつもりはないんだけどな。
むしろ、由良にとっても迷惑になりかねない行動をしたと思っている。
そんな僕の思いを余所に、由良は僕にこう言ったのだった。
「私、うれしかったんです。私を仲間として認めてくれたことが……一人じゃないって言ってくれたことが、うれしかったんです」
「……あ」
そこで、さっき僕が言った言葉を思い出す。
確かに僕は、あの男達に向かって、『大切な友達』という言い方をした。
それはまぎれもなく本心であり、心から思っていることだ。
……そっか、由良は今まで一人で生きてきたんだもんね。
こんなこと……言われたことなかったんだもんね。
親すらおらず、友達もいなくて、頼りになる大人の人も、いない。
信用をおいていた人は二人とも殺されていてこの世にはいない……彼女が信頼していた人物がクリエイターだったことには驚いたが。
「……由良は、確かに僕の友達であり、大切な人なんだ。それだけは忘れないでほしい。君は……もう孤独なんかじゃない。幸せに生きていいんだよ」
「……ありがとうございます、大和君」
お辞儀をする由良。
……何だか改めてお礼を言われると、ちょっと照れるな。
「大和君のおかげで……この世界で生きる意味が少し増えたような気がします」
「……そっか」
「大和君がいる世界なら、私、まだまだ生きていられそうです」
嬉しい言葉だ。
そんな言葉を投げかけられて、嬉しくならない人がいるだろうか……否、いないと思う。
「あ、そうだ」
ここにきて、僕はポケットの中に先ほど買った缶コーヒーを入れていたことを思い出す。
両手をそれぞれのポケットの中に突っ込んで、中身を取りだす。
走ってきたため、冷たかった缶は若干温まっているようにも感じられたが、このくらいなら平気だろう。
「はい、由良。コーヒーだけどいいかな?」
「あ、大丈夫ですよ。むしろ私、コーヒーは好きな飲み物ですし」
そんな会話をしながら、由良と僕はほぼ同時に缶のふたを開ける。
そして、コーヒーを口の中に流し込む。
……やはり若干ぬるくなっているような感じがして、喉を通る時に冷たさと同時に若干の生温かさを感じさせられた。
……失敗したな、これだったら缶を持ちながら走って行った方がまだましだったかもしれない。
けど、由良は僕に向かってこう言ったのだった。
「……おいしいです。大和君の体温を感じることが出来る、最高の飲み物です」
「!!」
……言われたこっちが恥ずかしいセリフだ。
由良はある意味で天然なのかもしれないな……こんなセリフが言えるとは。
「……それじゃあ、もう一度ここからやり直すとしようか。二人だけの、散歩を」
「……はい」
コーヒーを飲み終え、それをゴミ箱の中に入れると、僕達はベンチから立ちあがり、散歩の続きをする。
……太陽の光が、僕と由良の二人を当てるスポットライトのように感じられたのは、ここだけの秘密だ。
次回予告
「これは俺達の正当防衛だ」
「通り魔事件が発生しているらしい」
「あいつはすでにいなくなってるはずなのに……!!」
「作戦、開始」
「お前がアイツを……!!」
「これは俺達からの宣戦布告だ!!」
「そんなの余所でやれよ!」
「お前には分かるまい……俺達の苦しみが!」
「いつか言ってたな……この世界は成績がすべてじゃないって!」
「だから俺は戦う……大切な人達を、この学園を守る為にも!!」
次回、『学園反逆事件』編。
お楽しみに。