53,分かりやすい不良
「な……なんだ!?」
男達は、さすがに僕がいるとは考えつかなかったのか、驚きの声を挙げる。
だが、その直後に突然笑い出した。
「何だよ……お前さん一人か」
「痛い目に遭いたくなければ……この女を渡してもらおうか?」
「いやぁこの子かなり可愛いからよぉ……お前の彼女にしとくのはもったいないんだよなぁ!」
僕に突っかかってくる、三人の男達。
数で僕に勝っているからなのか、その表情には余裕すらうかがうことが出来た。
けど……僕に勝ちたいのなら、数に頼らないことだな!!
「由良は僕の大切な友達だ。この子には……指一本触れさせない!!」
「ああそうですか~」
「イケメンな彼氏をお持ちでいいねぇ!! もっとも、これからは俺達の恋人になってもらうけどな!!」
「……テメェら、どの面下げてそんなこと言ってるんだ?」
「ああ? ……!?」
あまりにもうるさいので、僕は今持ちうる限りの殺気を、男達に当てる。
すると、男達が面白いように黙り込んでしまった。
……自分で脅すのには慣れてるけど、脅されることに対してはまったく抗体を持ち合わせてないらしい。
……なんて絵に描いたような、弱い不良なんだ。
「や、野郎……やるじゃねぇか」
「けどなぁ……俺達だって伊達にこんなことし続けてるわけじゃねぇんだぞ!!」
「お前のようなアマちゃん、このナイフで……」
「ほぅ……どのナイフのことを言ってるんだ?」
「え? ……!?」
ナイフを見せつけてきた男に、僕は一言そう告げる。
そして、その男のナイフを……僕の風の魔術でどこかに弾き飛ばした。
「なっ……!?」
「魔術……お前、魔術が使えるのか!?」
……魔術も使えないような愚か者が、由良を連れ去ろうとしていた?
……馬鹿みたいな話しだ、そんなの。
その前に、このご時世で魔術も使えないとは……一体コイツら、何者なんだ?
「お前達……どうして魔術を使えない?」
「うるせぇよ……そんなのどうだっていいだろう!!」
男達は、何故かキレたような形相を浮かべて僕に襲いかかってくる。
……愚かだ。
本当に、愚かな男達だ。
僕に向かって……魔術も使えないのに歯向かうなんて。
ならば……いいだろう。
魔術を使うまでもない。
「はっ!!」
ガッ!
僕は襲いかかってきた不良の内の一人の鳩尾に、蹴りを入れる。
その男はその場に跪き、それを確認せず、僕は後ろを振り向く。
いつの間にか回り込んでいたらしい男が、僕に向かってナイフで突き刺そうと試みているところだった。
……ナイフなんかじゃ、僕の身体を傷つけることなんて出来るわけがない!!
「ふざけるのもいい加減にしろ!!」
その男の腹部にも蹴りを入れ、さらに横から襲いかかってくる男にも、左肘鉄を喰らわせる。
見事に三人共腹を抑えてその場にうずくまってしまう。
……けど、コイツらがおきあがったら面倒だ。
「由良、この場からいったん離れるよ」
「は、はい!!」
やむを得ない。
こうなってしまったからには……もはやこの公園に居続けるのは不可能だ。
面倒だけど、僕達の方から移動した方が確実だ。
どこか別に休めるような場所を探しに、僕と由良はその公園から走って出て行ったのだった。
……コーヒーは、ふたを開けていなかったので、ズボンのポケットの中に突っ込んでおいた。