51,親友(ライバル)宣言
「こんなところで大和君に会えるなんて、今日の私は最高についてるわ!!」
「……あの~、もしもし?」
駄目だ。
真理亜は完璧にトリップ状態になってしまっている。
僕のことを想い慕ってくれるのは大変嬉しいことなんだけど……ここまで来るともはやこちらとしてもどう対応していいのか困ってしまう。
それは初めて会った由良も同じのようで、真理亜の暴走っぷりに、どのように対応したらいいのか困った様子を見せていた。
……こう言うのは無視するのが一番の解決策だと思うけど、無視し続けたらし続けたらで、真理亜の反応が面倒臭くなって仕方がないんだよねぇ。
「……こうなったらしばらくは戻って来ないんだよね……あ、この子は北条真理亜。僕と同じ学校に通うクラスメイトだよ。一応挨拶した方がいいかもしれないけど……今挨拶しても返事は返って来ないと思うよ」
「\(^o^)/」
「……何か、顔文字が見える気がするのですが」
「気のせいじゃない。顔で顔文字を表現してるんだよ。瞬一曰く、顔文字感情表現方法って奴だね」
「は、はぁ……」
分かったような分からないような、そんな表情を浮かべる。
そりゃあそうだろう……分かった方が逆に怖い。
「それで、あの……私はどうしたら……」
「まぁ……いつまでもここにいるのも意味はないし。真理亜には悪いけど、このまま……」
「ちょっと待って大和君! 折角何だから一緒にお話しを……って、その子は誰?」
戻ってきた真理亜は、ここで初めて由良の存在に気付く。
……それほどまでに盲目になっていたのか。
「ああ、紹介するよ。この子は黒石由良。ついちょっと前にとあることがきっかけで知り合った女の子だよ」
さすがに事件で戦った者同士とは言えず、その部分は省略した。
けど、大体同じようなことを言っていると思うので、この説明でも十分通用するはず。
「そう……つまり貴女……私の敵ね?」
「何故そうなる?」
さすがに真理亜のこの発言には、頭を抱えさせられた。
何が敵だよ……会っていきなりの人に向かってその言葉は失礼だろうに。
「え、えっと、何の上での……ですか?」
「そりゃあ……決まってるでしょう。恋の敵よ、恋の」
真理亜は由良が誰を好きになっているのかどうかをどこで知ったというのだろう?
……いや、そんな馬鹿げたことを考えてるわけにはいかないか。
にしても、これが瞬一の気持ちなのだろうか……二人の女子を前に、ツッコミを入れたいというこの欲求間。
僕は別にそういう役目を担っているわけじゃないけど……瞬一はこんな悩みを抱いていたとは。
言ってしまえばどうでもいいような、くだらない悩みだけど……そんなくだらない悩みを真剣に抱ける程、僕の精神は若干穏やかになったのかもしれない。
両親の仇であるクリエイターを討ち、世界滅亡の危機をどうにか避け、すべてが終わった今……僕はこの幸せを享受している。
それはとても幸せなことであり……こんなにも居心地がいいものなんだなと、今日初めて知ったことでもあった。
「とは言うものの、いくらなんでもこのまま放っておくわけにもいかないか」
僕が二人の会話から意識を逸らしている内に、いつの間にか由良も言い返すようになっていた。
だから僕は、ここでストップをかけることにした。
「二人とも落ち着きなって。ここは一応街中だよ? いくら平日で人通りが少ないといっても、迷惑だよ?」
「「う……」」
僕がそう言うと、二人は素直に引き下がった。
……真理亜には悪いけど、今日は先役として由良を誘っているのだ。
「ごめん、真理亜。僕は今日由良と先に約束をしてしまってるんだ……今日の所は、その、見逃してくれないかな?」
「……いいわよ、大和君がそう言うなら。今回は貴女に譲ってあげるわ……黒石さん、いえ、由良さん」
「え……?」
真理亜が、由良のことを下の名前で呼んだ?
「貴女とは今後ともライバルであり……親友でいたいから。今日から私達は、親友よ!」
それは一見すれば宣戦布告のようにも思えただろう。
だけど、その言葉を受け取った由良は、笑顔で、しかし真剣にこう答えたのだった。
「受けて立ちます……真理亜さん!」
……どうやらこの調子だと、由良はこの世界のことを好きになってくれそうだ。