49,とある日の大和
Side大和
「ふぅ……」
久しぶりに、朝早くに目覚める。
……久しぶりにと言っても、いつも学校に行く時には早起きして行く為、そう言う意味での早起きではない。
休日という日に早起きするのが久しぶり、という意味だ。
「にしても……身体が少し重いかもしれないな」
昨日の体育祭も幕を閉じ、今日はその代休日。
恐らく生徒の大半がこの日を利用して休みにしていることだろうと思われる。
僕も、その一人だからだ。
「前ならこのくらいなら音をあげなかったんだけどな……僕の体力も若干落ちてきたかな」
少し、僕は嘆くような形で呟く。
最近目立った事件も発生していないことから、『組織』の仕事が舞い込んで来ないのも事実だ。
その為、僕が身体を動かす機会も減ってきているということにも繋がる。
だからかどうかは分からないけど、ここ最近の僕は以前よりも疲れやすくなってしまっているような気もしなくもない。
これからはいつ仕事が舞い込んできてもいいように、少し鍛練を積んでおいた方がいいかな?
「……とりあえず今日はすることもないし、散歩にでも行こうかな」
本当ならこのまま一日寝て過ごしてしまうのも悪くないような気もするけど、それじゃあ僕の身体が弱くなっていく一方だし、ずっと部屋の中にいるのは暇だしね。
それなら外の空気に触れた方がいいと思うしね。
「さて、そうと決まれば……」
遅い朝食を食べて、その他いろいろの準備を済ませる。
ある程度片付けが終わったところで、僕は外に出る為の支度をする。
「こんなものでいいかな……?」
準備もこの位で済ませておいて、僕は戸締まりを確認する。
「さて、行くか」
そして僕は、寮の部屋を出た。
「ふぅ……何だか気分がいいなぁ」
散歩に出て正解だと思った。
春とも夏ともとれるような、穏やかな天気。
暑すぎず、寒すぎず、しかも太陽の光もまぶし過ぎない。
程良く吹く風が、僕の身体を軽く撫でる。
その感触が少しくすぐったくて、僕は思わず口元で笑みを作ってしまう。
誰かが見ているわけでもないけど、何だか少しだけ恥ずかしくなってしまう。
「……平和だなぁ」
思えば、あの日以降この街は平和だ。
あの日とは……少し前に発生した、『光の器の力暴走事件』『悪魔の力暴走事件』が並行して発生した時の話だ。
あの日は本当に大変だったなぁ……下手したらこの街が、いや、この世界が混沌に包まれるところだったもの。
僕がやったことも無駄にはならなかったわけだし、それだけでも十分に満足だった。
「あの子は元気でやってるのだろうか……」
少し、僕はきにかける。
『あの子』とは、あの事件において僕が救った少女のことだ。
事件の日以降僕はあの子とは一回も会ってないけど……きちんと自分の進むべき道を見つけることが出来たのだろうか?
「……会ってみたいなぁ」
そう呟いてみるけど、そんなのはほとんど不可能だろうと僕は呟く。
なぜなら、よほどのことがない限り、僕はあの子に会うのは難しいからだ。
何せあの子がいつ釈放されたとかの情報が僕の耳に届いていない。
少なくとも、僕があの子に会うことが出来るのは、前の事件での事情聴取等が終わってからということになる。
「……僕はあの子の居場所になったんだ。だから、一度はあの子の所に行かないと」
別にそういう意味が込められた散歩というわけではないけど、そんなことを考えてしまう。
まぁ……会えたら会えたらでそれは嬉しいことなんだけど。
そんなことを考えていた、その時だった。
「……あ」
「うん?」
女の子の声が聞こえてくる。
そしてその声は、僕が前に聞いたことがあり、そして今もっとも聞きたかった女の子の声だった。
「お久しぶりです……大和君」
「……由良」
その少女……黒石由良がそこにいた。