38,借り物競争
そんなわけで始まった、今年の体育祭。
一年生による100m走は、特に変わった点があったわけではないので割愛させていただこう。
何故か知らないけど、千世は走っていなかったし。
「100m走の次が、この借り物競争とはな……」
「……頑張る!」
横には、やる気を見せている月夜がいた。
……悪いが去年もこの競技に参加しているだけあって、正直借り物競争のお題にはあまり期待していない。
どうせろくでもないようなものがお題となるのだろう……あまり考えたくはないので、俺はそこで思考を止めた。
『さて次の競技は、昨年度よりもパワーアップして帰ってまいりました、借り物競争Ver.02です!』
……いや、『Ver.02』ってなんだよ。
しかも、パワーアップする必要もないし。
『今回は各クラス二人ずつの、学年毎に競技が行われることとなっております。男女混合ルールです……借り物競争は基本個体差は出ないので』
まぁ、確かに借り物競争は早く借りられた奴が勝ちという感じのものだからな。
『ちなみに、ハズレもありますのでご注意を』
「ハズレあるんかい!?」
思わず俺はツッコミを入れてしまった。
……いや、気持ちは分かるだろ?
「……瞬一の隣、生徒会長みたい」
「うん?」
月夜に言われて、俺は横を見る。
するとそこには、先ほどまで壇上に上がっていたしょうが……ゲフンゲフン、生徒会長が隣にいた。
「……えっと、名前は確か……」
「早乙女蜜柑だよ。よろしくね?」
弱めの風が、セミロングの茶髪をゆったりと揺らす。
……近くで見てみると、結構可愛いんだな。
「君のことはよく噂で聞いてるよ……三矢谷瞬一君」
「……やっぱり俺って、そんなに有名人?」
「うん、わりと」
そうなのか……俺についてどんな噂が出回っているのか、今度一度調査してみたいところだ。
「グレイブスタン公国の王女と知り合いだなんて……なかなかない経験だと思うよ? というか、羨ましいなぁ」
「そうか? 王女って言ったって、結局は女の子だろ? 身分なんて関係ないだろうに」
「……」
俺がそう言うと、生徒会長……改めて早乙女が、ポカーンと口を開いてこっちを見てきた。
そして、一言。
「……なるほどね」
何がだよ。
よく分からないから……後月夜、隣で頷くな。
『それでは始めたいと思います!』
そんなことをしている内に、競技が始まるみたいだ。
俺は走る構えをとる。
他の奴らも、同じような格好をとり、そして……。
『ようい……』
パン!
鉄砲の音がして、一同は同時に走り出す。
早乙女に至っては、
「蜜柑、いっきま~す!」
なんて、機嫌よくそんな言葉まで言った程だ。
……テンションが高い奴だな、早乙女は。
俺はとりあえず、如何にして相手よりいい札を選ぶ為にも、俺は誰よりも速く走る。
……意外に早乙女は足が速い。
もう少しで追い付かれるところだった。
しかし、俺の方が僅かに速かった為、どうにか封筒の塊に、一番最初に来ることが出来た。
そして、適当に俺はその中から一枚選び、中身を確認する。
その中に書かれていたのは……。
「……『お花が似合いそうな少女』?」
……さりげなくこのお題、難しくない?
「……は、ハズレ!?」
……どうやら早乙女は、ハズレの札をひいてしまったようだ。




