36,決まりました(笑)
そして、数分後。
教室がさっきよりもざわついている。
ということは……もう全部の競技が決まったのか、それとも最後の競技であるリレーだけが残っているのか。
「それじゃあ最後にリレーだが……」
よし、タイミングバッチリだ。
ここでリレーのところまで居眠りしていたら、危うく指名されるところだったからな。
その証拠に……晴信の眼が明らかにこちらを向いている。
そして晴信は、俺に向かって指を指すと、
「リレーのアンカーはお前に決定だ!」
と、宣言してきやがった。
……だが、今回は正攻法で攻める方法があるのだ。
慌てず、冷静に物を言えばいい。
「残念だが晴信、俺はリレーを走ることは出来ないんだよ」
「何?」
「お前も知ってるだろ……各人二競技までしか参加できないってことを」
「ああ、知ってるが……」
「……貴方、まさか!」
どうやら北条は気付いたようだ。
……先ほどまでのやり取りで気付いているだろうに、晴信の奴はやはりそういうことを考えないやつなんだなぁ。
「だから瞬一は、瞬一なら避けるような借り物競走と障害物競争に立候補したんだね……」
「そういうことだ」
「む、無駄に策士すぎます……」
葵が呆れるように言って、春香も少しだけ驚いたように言う。
……それほどまでに、俺はリレーのアンカーという役回りを避けたかったのだ。
なぜなら……この競技が一番面倒くさい上に、かなり危険な競技だからだ。
いくら他人に対する魔術攻撃は認められていないとは上、サポート魔術の使用が認められているリレーは、何かしらの事故に巻き込まれる可能性あないわけでもない。
その点に関しては障害物競争も似たような感じとなるだろうが……こちらはギミックがよほどのものでない限りは大丈夫だろう。
「仕方ない……リレーは他の人にやってもらうことにして……」
「俺が出る」
そう言って自ら手を挙げたのは……大地か?
珍しい……大地なら余った二競技だけを選ぶってこともしそうだっただけに。
「いや、今回の体育祭はリレーの方がまだマシみたいだぞ……それ以上にある意味出たくない競技というのがあるらしい」
「え? それってどんな競技なんだ?」
「……瞬一は居眠りしていて聞いてなかっただろうけど、さっき真理亜から聞いた」
あ、最後のは月夜の発言な。
ちなみに月夜は、転入してきて数日が経過した為か、すでにこのクラスの奴らともなじめるようになっていた。
そして人の名前は……ほとんど下の名前で呼ぶのだ。
女子全員と……男子は何故か俺だけ。
「へぇ……それってどんな競技……」
「脳トレアスレチックって競技だよ」
「の、脳トレ……アスレチック……」
何だよ……それ。
頭と体力の両方が備わってなければ成立しないようなその競技。
誰だよ……こんな競技を考えた奴。
「新しく出来ただけに、危険度はそれなりに高いからね……噂によると、問題に入る前にアスレチックで脱落する人もいるくらいだって聞いたよ」
「……どんな競技だよ」
大和がそこで、自分が聞いたらしい噂話をしてくる。
ますますこの学校の体育祭という物が何を目指しているのかが分からなくなる……。
借り物競走では人を借りるような学校だからな。
「んじゃ、競技の方はこれでいいわね?」
「異議がなければ、これで終わりにするぞ」
北条と晴信がそう言ったことで、この場はお開きとなった。
しかし……体育祭か。
今年の体育祭は、はたしてどれだけの大波乱が待ち受けているのだろうか……。
今から少しだけ、楽しみだ……面倒くさいけど。
そして、とうとうその当日がやって来たのだった。