35,出る競技を決めよう
五月。
それは春の空気も若干薄らいで来てはいるが、暖かい風が身体を柔らかく撫でてくれる、九月中旬と同じくらいに過ごしやすい月である。
そして、五月もいよいよ終わりに近づいてきた、とある日のことだった。
「……ハァ」
思わず溜め息をついてしまう俺。
教室の中は、いつも以上に騒がしかった。
何をするかなどの話し合いを、周りで行っている。
まったく……どうしてこうも、ここまでやる気を出しているのかねぇ。
「面倒くせぇ……」
思わず俺は、そう呟いていた。
いやぁ、面倒くせぇ。
本当に面倒だ……何故なら今は。
「静かにしろ……それではこれより、どの競技をやるか決めるぞ」
そう。
五月と言えば、体育祭。
学校によっては九月とかにやるところもあるのかもしれないが、この学園は五月に体育祭をやるのだ。
そんなわけで、俺達は今日、どんな競技に出るのかを決めていた。
前回は大分酷いエゴが働いたおかげで、リレーのアンカーに選ばれたりしたが、今回はそんなことのないように無難な路線を選ぶことにしよう。
この際借り物競争でも障害物競争でも構わない。
だから少なくとも、リレーだけは何とか避けたいところだ。
あ、ちなみに前で司会を務めているのは晴信と北条の二人だった。
北条は前年度から引き続きで、晴信は自ら立候補して、学級委員になった為だ。
まぁ、学級委員に選ばれた奴は、何があろうとそのクラスから抜けることがないからな……あ、これは今年から新しく出来た規則だ。
下のクラスにいる奴はあまり得しない規則だけど……SやAにいるような奴は結構得するんだよな、これが。
雑務が面倒だから俺は遠慮したが、これで晴信は一年間S組にいることが出来るというわけだ。
よかったな……これでどれだけ試験でヘタこいても、S組という地位はなんとか守れるぞ。
「……というわけで、俺と北条が今から競技を挙げていくから、自分がやりたい競技が出た時に名乗りを挙げて欲しい」
なるほど……とりあえずまずは集計をとるということか。
晴信にしてはいい案じゃないか。
「……まずは障害物競争」
「「はい」」
……む?
大和も手を挙げたか。
そりゃあ去年もやったから今年もやりたいのは分かるけども……コイツも危険を顧みるのが好きだねぇ。
ちなみに、他の奴らは進んで手を挙げる気はないらしい。
「……それじゃあ大和君と三矢谷瞬一に決定ね」
こら北条、依怙贔屓するな。
さて、その後もいくつか候補が上がって、そして借り物競争の名前が挙がったので、
「はい!」
俺はここで手を挙げる。
だが借り物競争は如何せん人が多いんだよな……比較的楽な競技だから。
俺が何を言いたいのかというと……この競技の名前が読まれた時に手を挙げた連中が多いということだ。
「それじゃあじゃんけんね……私とじゃんけんをして勝った人だけが残って。二人になるまで勝負よ」
「よし……やるぞ!」
「受けて立つよ!」
む?
この競技には織も候補に出たのか……あ、月夜もだ。
「……負けない」
「こっちこそ」
負ける気はない……俺はこのじゃんけんに勝って、借り物競走の座を手に入れるんだ!
ちなみに、俺が何故そこまで気合いを入れているのかというと、競技が二つ決まってしまえば、もうそれ以上は入れないという規則になっているからだ。
「それじゃあ行くわよ……最初はグー」
「「「「じゃんけんぽん!!」」」」
そうして、じゃんけんの結果。
「か……勝った!!」
「……私の勝ち」
「くっ! せっかく瞬一君と同じ競技に出られると思ってたのに……」
勝ったのは、俺と月夜の二人だけ。
何とも凄い奇跡だろうか。
「……それじゃあ次の競技に行くわよ」
北条がそうやって言葉をつづけて、次の競技を挙げていく。
俺は二つすでに決まったので……寝させてもらうことにしますか。