33,アイミーの凄さ
「……」
「このくらいの檻ならば……簡単に壊せますわ、よ!!」
千世は、そう叫ぶと同時に、足元から水の壁を作り出す。
そして、アイミーが先ほど創り出した炎の檻を、悉く壊した。
自由の身となった千世は、
「……さて、今度は私の番ですわよ?」
「……まだです。まだ、私の攻撃は終わっていませんよ?」
「……え?」
何か、とてつもなく凄いプレッシャーを、アイミーから感じられる。
あれ……アイミーってこんな女の子だっけか?
「放出、炎・水」
「え?」
今、二つの属性を口にしなかったか?
確か、魔術師が一度に発動できる魔術の属性は、一つだけだったはず。
いや、雷属性が得意な魔術師でも、水や風などの属性の魔術を使うことは可能だ。
しかし……水と炎を二つ同時に扱うなんてことは、夢のまた夢の話のはず。
それなのに、アイミーはこの二つの属性を同時に使おうとする。
失礼ながらこう思ってしまった……正気か?
「無駄ですわよ! 到底私のスピードに叶うはずがありませんわ!!」
確かに、千世の動きは早い。
先ほどのアイミーの攻撃によって遠くなってしまった距離を、わずか5秒で詰めてしまったのだから。
だが、その5秒は……アイミーにとっては遅すぎる5秒間となっていたらしい。
「……発射、炎・水の槍」
瞬間。
空中に浮かび上がってくる、二つの種類の魔法陣。
片方は赤で、もう片方は青。
まさしく、炎属性と水属性を示す魔法陣だった。
「そんな……二つの属性の攻撃を、同時に……」
「しかも、相性が悪いはずの二つの属性を……同時に使うなんて」
葵が呆然と見ていて、春香がそんなことはないと呟く。
確かに、二つの属性を同時に扱うだけでも凄いのに……相性が明らかに悪いはずの二つの属性を同時に使えるとは……相当の使い手であろう。
あの時に見せていた、か弱くて守ってあげたくなるようなオーラを、今のアイミーは完全に払拭していた。
考えてみれば、アイミーは王女なのだ。
何らかの訓練を受けていてもおかしくはないはずだ。
……初めて会った時には、抵抗していたと言っていたが、数が多すぎて携帯電話を壊されてしまったとも言っていた。
……なるほど、科学魔術師の欠点である携帯電話を壊されると、アイミーはなにも出来なくなってしまうのか。
けど、携帯電話を持たせれば、アイミーは結構強い部類に入ることだろう。
……それこそ、葵と張り合える程度に。
小野田なんか目じゃない、啓介も1分もつかどうか……。
晴信もギリギリで負けることだろう。
「くっ……貴女の実力を甘くみていましたわ!!」
魔法陣からは、二本の槍が放出される。
一本は炎を帯びていて、もう一方は水で出来た槍だ。
その二本の槍は、千世の身体めがけて飛んでくる。
「ですが、その攻撃を簡単に受けてしまうほど、私も人間が出来てはいませんわ!」
往生際が悪いとでも言いたいのだろうか。
千世は、その二本の槍を……何と手にしていた剣で強引にぶった斬ってしまったのだ。
「す、凄い……」
「さすがは石塚だな……」
これには晴信達も感心するだけだ。
そりゃああの攻撃がやってきたら……普通は身体が固まってしまって対処が出来ないだろうに。
魔術服のご加護があるって分かってたとしても、ここまで動けるものなのだろうか。
「凄いですね……ここまでの実力とは」
「私だっておじい様と特訓をしてきましたのよ? そう簡単に倒れるわけにもいきませんわ」
そう言いながら、手に持つ剣の刃先をアイミーに向ける。
……言い忘れていたが、千世は自然魔術師だ。
それを裏付けるかのように、携帯らしき物を持っていなければ、MP3プレーヤーみたいな物も持っていなかった。
「ですけど、次で最後にいたしましょう……お互い、身体が疲れてしまって仕方がないでしょう?」
「……そうですね。多少魔術を使いすぎた為に、疲れが溜まってきてしまって仕方がありませんし」
二人ともすでに息が上がってしまっている。
それだけ、ここまで二人が繰り出してきた魔術の凄さが理解できた。
「では……行きますよ?」
そして二人は、決着をつけるべく、同時に地面を蹴った。