32,アイミーvs千世
「「……」」
対峙する、二人。
戦闘スペースの間には、無駄に強い風が吹いているようにも感じる。
俺達は、遠くに離れて、戦闘の影響を受けないようにしていた。
それでも巻き込まれてしまう可能性が高いわけだが、まぁ巻き込まれたら巻き込まれたらで、何とかすればいいだけの話だ。
その覚悟があって、みんなこの二人の戦いを見たいと言ったのだから、多少の危険はつきものだろう。
この二人が……それほど壮絶なバトルを繰り広げるのかどうかは分からないが。
「それでは、これより石塚千世とアイミーン・グレイブスタンの模擬戦闘を開始します!」
審判をやるのは、もちろん葵だ。
葵は、審判用に特殊な魔術がかけられた服を着用し、安全にはきちんと心がけている。
校長の孫娘と、一国の王女。
……肩書きだけを見たら、かなり壮絶なものだなぁ。
「この二人の対決……かなり見ものだぜ?」
「そうね……普通ならなかなか見れるものじゃないもの。特に王女が戦う場面なんて、そうないじゃない?」
「というか……戦えるんでしょうか?」
戦えなかったらこの勝負の申し込みを受け入れることはないだろうに、春香。
さすがに戦えないやつが無理にこんな願いを聞いてくれるとは思わないし。
確かに、アイミーがどこまで戦えるのかどうかわからないから、なんとも言えない。
しかも、初戦の相手として千世が来るとか……どんな悪夢だよ。
あの時だって、俺は千世と引き分けたのだ。
アイミーは、はたして千世に勝てるのだろうか?
「……それでは、はじめ!」
「一気に終わらせて差し上げますわよ!!」
葵の開始宣言と同時に、最初に動いたのは千世の方だった。
両手で剣を握り、アイミーとの間合いを一気に詰めていく。
だが、それでもアイミーは冷静だった。
「……動かないのか?」
避けようともせず、攻撃しようともせず。
ただその場に立っているだけ。
……何をしようとしているんだ、アイミーは。
「そんなところでただボゥっと突っ立っていますと、この剣の餌食になりますわよ!!」
相手が王女であろうと、手加減はしない。
千世はアイミーの首筋狙って、思い切り剣を振るおうと、その間合いをさらに詰める。
……だが、ここでアイミーが動いた。
「……守護」
右手をゆっくりと前に突きだし、そして一言、そう呟いた。
だが、何の攻撃をしかけてくるのかがイマイチ理解することが出来ない。
……突き出された右手に携帯電話が握られているところから察するに、アイミーは科学魔術師だ……ていうか、去年にそのことは聞いてるか。
「避けないと、私の剣の餌食に……」
「なんて、なりませんよ……?」
ポツリと、アイミーはそう一言呟く。
しかし、それとは裏腹に、千世の剣がアイミーの喉元まで接近していく。
……千世の剣が、その身体を捉えようとした、その時だった。
「なっ……!?」
突然千世が踏んだ地面が、赤く光り出す。
そしてそこから噴き出して来たのは……炎の檻。
「……捕獲完了」
「こ……これはなんですの!?」
信じられないことに……千世の身体は、炎の檻の中に閉じ込められていた。
……こんな術、今まで見たこともないぜ。
少し、アイミーの強さを知ったのだった。