31,発言は考えてからしようぜ
さて、俺達は今部室にやってきている。
もちろん、アイミーも交えてだ。
……不覚にも、先ほどの『学園生活を楽しめ』と言われた発言には、グッときてしまった。
さすがは父親……娘のことを一番に考えているんだなぁ。
一応、今回アイミーが日本に来たのにはちゃんとした目的があるわけだが、その中でも最大限楽しむように言ってくれるとはな……。
仕事だけじゃあ心がもたなくなるってことを、きちんと分かってあげている証拠だろう。
「そんなわけで、アイミーも来たわけだし……何する?」
アイミーが来たからと言って、別に俺達は特別なことをするつもりもない。
だが、とりあえずは何かやらないといけないだろう。
「……瞬一先輩、その人が、三年A組に入ったって言う……」
「ああ。紹介が遅れたな。こちらはA組に転入してきた留学生、アイミーン・グレイブスタンだ」
「よろしくお願いします」
丁寧に、ペコリとお辞儀をするアイミー。
それにつられて、優奈達もお辞儀を返した。
思わず、丁寧過ぎる程に。
「アイミーンさんが……留学生でしたのね」
「ん? 知ってるのか?」
何やら知っているかのように話す千世。
気になった俺は、千世にそう尋ねてみた。
すると、
「ええ。うちのおじい様との関係上、グレイブスタン公国には何回か赴いたことがあるんですの。ここつい最近のお話ですが」
「はい。チヨとは何回かお話もしています」
「へぇ……」
意外なところで接点発見。
これは驚きだな……。
「……私達、王女様とお話してる」
「夢じゃないんですよ……お姉ちゃん」
「お~い、戻ってこ~い」
晴信が、若干トリップしている植野姉妹の顔の前で手を振る。
しかし、反応はなし。
よほど今回の出来事が衝撃的なことだったのだろう。
「な、なんで君が……この部活に……」
そして、この場所にアイミーが来ていることにかなり驚きを見せている、小野田。
よっぽど何も伝えられていなかったのがショックだったのだろう。
……って、よくよく考えてみれば、アイミーと小野田って同じクラスだよな?
「御免なさい……まさかコウヘイが同じ部活だとは思っていませんでしたから」
ああ……納得。
さすがに小野田まで同じ部活に入っているとは、普通は考えが至らないだろう。
何せ、小野田だし。
「お前……今さりげなく俺のことをバカにしてなかったか?」
「いや、別に」
面倒なんで、小野田にこれ以上何かを言うのを遠慮しておこう。
……アイミーを巡って対決しろなんて言われるのもいやだし。
「それじゃあ、アイミーンさんの力を見せてもらう、っていうことでどうですか?」
「お前……初っ端から遠慮なしの発言だな」
優奈の提案に、俺は思わず頭を抱える必要が出てきてしまった。
いきなりそんなこと言われてもなぁ……アイミーだって困っちまうだろうに。
「じ、実力って……もしかして、戦うってことでしょうか?」
「そうだね……何と言ってもうちの部活は、『魔術格闘部』っていうくらいだし」
葵の言うとおりだ。
この部活は、『魔術格闘部』という名前を冠っている。
それだけに、戦闘をしなければならないというのは明らかなる事実なのだ。
「それなら……構いませんよ?」
「え、いいのか?」
まさかOKをもらえるとは思っていなかったので、俺は少々驚いてしまった。
「それなら、相手として私がやってもよろしいですか?」
「え?」
そう言って名乗りを上げたのは、意外にも千世だった。
「うん……いいんじゃないかな?」
「え?」
さらに意外なことに、葵がそのことに賛成したことにも驚きだった。
他の人達も……同様の意見であるらしい。
「お前ら……本当に考えて発言してるんだろうな?」
ちょっと不安になったが、その後の流れからして、どうやらアイミーと千世が戦うのは決定事項となったのだった。
……確かに、アイミーンがどのようにして戦うのかは若干気になるな。
それに、千世の方も気になる。
そんなわけで、俺も一応賛成したのだった。
……あ、小野田は放心状態のままだったので、放っておいた。