29,再会
「あれ……今物凄く聞き覚えのある声が聞こえてきたような気がしたんだけど……」
晴信の言う通り、今確実に聞いたことのあるような声が聞こえてきたような気がする。
しかも、俺の名前をジャストで呼んでいた気もする。
……なんだろう、俺はどこでこの声を……。
「この声……そうか」
「何か分かったのか? 大和」
大和が何かに気付いたようなので、俺は気になって大和に尋ねる。
しかし大和は、俺の顔を見て笑うだけ。
……何なんだ、コイツは。
時々俺には、コイツが分からなくなる。
「それは直接君が気付くべきだと思うよ……もうすぐ来る筈だから、その場で待ってみるといいよ」
大和が、意味深な笑顔と共にそう言う。
……結局、教えるつもりは皆無ということらしい。
けど、俺が気付く、か……。
「今の声……いや、まさか。コイツの知り合いである可能性なんて……」
「どうした小野田? さっきまでの表情が一転して思案顔になってんぞ」
「う、うっせえ! とにかく今日のところは帰れ!」
うるさい奴だな、コイツは……。
しかもコイツ、割と扉の近くに立っているものだから、結構邪魔になってるし。
さっきから廊下に出ようとしている奴らが迷惑しているのにも気付かないのか、コイツは。
「……おい、後ろにいる奴が困ってるだろうが。早くそこを退いてやれ」
「そう言って俺が退いたところを狙って中に入ろうったってそうはいかねえぞ!!」
「……いや、事実だから」
北条が呆れた表情を見せて、小野田から見て後ろの方を指差しながら言う。
そこには、ここからでも分かるような、金髪の少女が立っていた。
だが、小野田は気付かない。
まだ俺達が嘘を言っているかのように、疑うような眼差しでこちらを見てくる。
もう少し人を信じるということをしても構わないような気もするんだが……コイツに何言っても無理か。
なら、若干やりたくないが……。
「どうした? 諦めてとっとと帰る道を……ヒィ!」
ジャキ。
小野田の額に、銃口を突き付ける晴信。
……なんだろう、結構様になってるような気もしなくもない。
「……邪魔だ。さっさと退け」
「…………………………………………はい」
素直に応じた小野田は、大人しくその場から退いた。
これでようやっと邪魔者がいなくなって、教室から出られなかった奴らも出られるようになった。
まったく……いつまでも他人に負の迷惑をかけるなっての。
かけてもいい迷惑は、相手に返せるような、もしくは返して貰えるような迷惑だけで十分だっての。
「さてと……俺はいつになったら教室に……!?」
……大和の方を振り向きながらそう話しかけようとした時。
その途中で、俺はとある一人の少女の姿を確認する。
それはまさしく……俺達がかつて見たことのある少女であり、本来ならばこの場にいるべきではない少女だった。
美人であり、腰の辺りまで届いている金色の髪の毛は、その場に立ち止まっている少女にも吹き寄せる軽い風によって、ふわっと揺れる。
この学校指定のセーラー服に身を纏ったその少女は、この場にいるどの女子生徒よりも……いや、この場にいるどの人物よりも、特殊なオーラを感じ、そして親しみやすいオーラを感じていた。
思えばあの日から数ヶ月。
俺達とこの少女は……しばらく長い間会っていなかったのか。
「……アイミー、どうして、ここに?」
その少女―――アイミーン・グレイブスタンは、前と変わらない、優しい雰囲気を身に纏って、俺達の前に立っていた。
そしてその瞳からは……小さな光が見えていて。
「うわっ!」
ギュッ。
アイミーは、力強く俺の胸に飛び込んできて、強く抱き締めてくる。
そして、俺にこう言うのだった。
「……お久しぶりです、シュンイチ……!!」