25,事態の収拾
「……マジで?」
しばらくの静寂の時間の後、晴信がようやっと口にした言葉が、それだった。
まぁ、信じたくない気持ちも多少分からなくもないが……これが現実なのだ。
今日程自らの行いに対して悔しい気持ちを抱いてしまった日はないだろう。
「……なんか、ズルいです」
……はい?
ズルい?
「そうだよね……何か負けた気分になるよ」
「千世ちゃん……貴女が私達の新たなるライバルだったんだね」
春香の言葉に釣られるかのように、織・葵の二人も言葉を並べる。
……いやいや、中身の入れ替わりからどうやってそっちの方向に結び付くわけ?
「べ、別に私は男の人の身体がどうなっているか知りたかっただけですのよ……決してやましい考えなんて……」
「……その言葉自体が既に自滅ですよ」
優菜からの言葉に、千世は完全に落ち込む。
……いや、落ち込むのは大変結構なのだが、俺の身体でそのポーズをとるのは見ていて鳥肌がたってくるから、今すぐ止めてくれ。
「けど、そんなことって本当に出来たんだ……」
「俺、てっきり中身入れ替え系の魔術は存在しないものだと考えてたよ」
啓介がそのように言った。
……確かに、魔術の中には中身入れ替え系なんて存在しないはずだ。
それならアイツらは、一体どうやってあの機械を開発したのだろうか……。
あれが科学の力のみで出来ているのだとしたら、相当の根気と努力を要したことだろう。
その結晶となった機械の実験体として選ばれたのだとしたら、それはそれで本望なのかもしれないな。
「……ねぇ、今瞬一の身体の中には千世ちゃんが入ってるんだよね?」
「え、ええ……そういうことになりますわね」
「で、でしたら、その……き、キスなんてしても、その……」
「よろしくねぇよ!」
何を言い出すんだ、優菜は!!
よくもまぁキスしたいなんて言えるな!
中身が千世だとしても、身体は間違いなく俺のだぞ!?
つまりは、『俺』とキスしたことになるんだぞ!?
「ズルいよ優菜ちゃん! 瞬一君とキスするのはボクだよ!」
「お前も何言ってんだよ!!」
ヤバい……このままだと、この場が納まらなくなりそうだ。
二人に釣られて、葵と春香の二人も、千世(俺の身体)の周りにウジャウジャと集まっていく。
「……モテモテね、瞬一先輩♪」
「うっせえ、余計なお世話だっつーの。お前は晴信と二人でイチャイチャしてろ」
「なっ……なんでそんなことになるのよ!!」
刹那が俺に向かって何かを言って来たので、仕返しとばかりに俺はそう切り返してやった。
すると刹那の顔はたちまち赤く染まり、俺に満足に反論することも出来なくなってしまっていた。
さすがは刹那だ……晴信ネタを出されると弱いな、ホント。
「何だ刹那。どうして顔を赤くしてるんだ?」
そこに刹那の王子様が登場。
「あ……アッチに行けぇえええええええええええええええええ!!」
「ひでぶっ!」
ドゲシ!
恥ずかしさのあまりに、刹那は顔を更に赤く染めて、そして晴信を蹴り飛ばす。
蹴られた晴信は、そのまま後ろにぶっ飛び、壁にドカン!! と激突していた。
晴信……いとあわれなり。
「ねぇ千世ちゃん、お願い……瞬一の身体に触らせてよ~」
「一生のお願いなの……触らせて?」
「お前らはいい過激にせんか!!」
こうして、俺と千世の入れ替わり騒動は、幕を閉じた。
次の日には、俺達の中身をなんとか戻してもらった。
その後俺は、千世に俺の身体に何かをしたのかを聞いた所、
「……///」
顔を赤く染めて、ただ俯くだけだった。
……何かしたんだろうな、俺の身体で。
かくいう俺も……千世の身体を使って……。
敢えて正直に言おう……俺も健全な高校三年生だったんだと。