23,君達に分かるかな?
「ふぅ……」
溜め息をついてしまう俺。
何か、部活に来るまでにも、結構な気負いをしてしまい、思わず何度も現実から目を逸らし続けた程だ。
俺は今……女子(石塚千世)の身体の中にいる。
その事実は、俺の心に重くのしかかっていた。
……女子の身体かぁ。
何だろう、明らかに違和感を感じるんだよなぁ。
まずは視点。
背が低いというのもあるのだろうが、いつもよりも下の方に視点があって、なんとなく見ずらいのだ。
次に、身体に筋肉があまりないということ。
軽い……いや、軽すぎる。
何か少ししたら身体の骨が折れてしまいそうな、そんな感じがするのだ。
……女子というのは、いつもこんな感じで生活をしているのだろうか。
最後に……胸の圧迫感。
これだけはなんともすることが出来ない……女子たるもの、胸があって当たり前なのだから。
……にしても、胸ってやっぱり……。
「私がいる前で、その……胸は触らないでいただけます?」
触ろうとした直前に。
千世が俺のことを止めてきた。
……うん、その気持ちはわかる。
だから、千世も俺の身体をくまなく触ることだけはやめような?
「だって……こんな経験、なかなかありませんもの……不本意ながら、私も瞬一先輩の身体を堪能させて頂きますわ」
「あのな……」
俺は駄目で、お前はいいのか。
何と言う、唯我独尊っぷりだろう。
これに天上天下なんてついたら、某格闘ゲームに出てくる中華料理店を経営してる姉ちゃんになるぞ。
……話が逸れたな。
ともかく、こんな状態のまま、俺達はついに部室の前まで到着してしまったのだった。
「……本当に、中に入るのか?」
確かにさっきまでは、晴信達に俺達のことが分かるかどうかについて遊ばせようとしてたさ?
けど……いざこれを前にしてみると、何だか途端に入る気が失せてくるのだ。
それは千世も同様のはず……。
わずかながらの可能性に賭け、俺は千世に返答を求めたのだが。
「え、いいんじゃないかしら?」
……御見それしました。
貴女の精神力を、私目は嘗めていました、はい。
「じゃあ、行きますわよ? ……瞬一先輩」
「せめて中に入ったら、お嬢様言葉を使うのをやめて頂けませんか?」
俺もそろそろ、シフトチェンジをしなければならないな。
そんなわけで……俺も千世に成りきることにしよう。
そうしなければ、アイツらに当てさせるという遊びもすることが出来ないからな。
Side晴信
「お? 来た来た」
技術部に呼ばれていた二人が、ようやっと帰ってきた。
……ふむ、見たところ変わった点はないけど、アイツらは一体あの部活に行って何をしてきたんだ?
「なぁ、お前達なにしてたんだ?」
「別になにもしておりませんわ」
「ああ。特にはな」
……違和感はあまりないな。
さすがに中身だけが入れ替わるとか、そんな非現実染みたことはないか。
……魔術使えるのが非現実的でないかといわれると、少し疑問を感じずにはいられないが。
「む~……瞬一、何か様子が変じゃない?」
「別にそんなことはないと思うけどな……そんなに変か?」
「なんか、雰囲気が違うような気がするんだけどなぁ……」
「葵さんもですか? 実は私もなんです」
「ボクもだよ……」
「私もです」
「優奈も? 別に私はあんまりよく分からないけどなぁ……」
どうやら瞬一に好意を寄せているメンバーは、何かしらの違和感を感じているらしい。
で、男子+刹那は、何も分からない……違和感なんて感じるか?
というか、刹那、もしかして……。
「お前、男だったのか?」
「いっぺん死んでみる? 晴信先輩」
「すみませんでした」
ナイフを持ってこっちを睨んできた刹那を見て、俺は思わず目をそむけながらそう言っていた。
……いやぁ、女の子って怖いね♪
「う~ん……じゃあ、二人にいくつか質問してみてもいいかな?」
お、それはいい案だな、葵。
そんなわけで、俺はこの成り行きをじっくりと拝見させて頂くことにしよう。
俺か?
……真相探しなんてする柄じゃねえし、もうお手上げだ。