22,こ、これが……
「う……ん……」
どのくらい眠っていたのだろうか?
いやいや、実際にはそんなに眠っていないのかもしれない。
ただ……何だかよくわからないけど、視点が少し下に下がったような気がしなくもない。
それに……いつもと何だか感じが違う。
何と言うか、その……圧迫感を感じるのだ。
身体が軽くなったのもあるし、筋肉が落ちたなぁって感覚もある。
一番大きな違和感は、胸に、その……圧迫感が。
「あ、気がついた?」
「あ……お前は……って、あれ?」
声を出して、さらに違和感。
声が……高い?
それにこの声、どこかで聞いたことのあるような……。
骨伝導による声だが、この声は確かに聞いたことのあるような声だ。
おかしい……この声が俺の声の筈がない。
もしや……。
そう思った俺は、慌てて横を振り向いてみる。
するとどうだろう……。
「俺が……眠ってる?」
「どうやら実験は成功したみたいだね……だけど、次にこの人格交換君を作動するまで後数時間はかかるから……明日の朝までは二人ともその身体で過ごしてもらわなければいけないけど……いいかな?」
「う、ん……あれ、ここは、どこですの?」
俺の声で、そんな言葉が聞こえてくる。
……まずい、この状況は、かなりまずい。
何と言うか、限りなくまずい。
俺の声で、お嬢様言葉が聞けるなんて……嫌な冗談だ。
「あら……何だか声が低くなったような感じが致しますわ。それに……私が、目の前に、いる?」
「入れ替わったんだよ。俺と千世……互いの心と心がな」
「……そうでしたの! ついに私は、男の人の身体の中に……」
なんだろう。
この半端ない敗北感。
……俺は一体、この十七年間の間で何を学んできたというのだろう。
ちょっとした現実逃避をしたい気分だ、猛烈に。
「それで、明日の朝まではこの状態なんだとよ。要は登校してきたら即こっちに来ればいいんだろ?」
「そうだね……その時間帯だったら、恐らくこの人格交換君もうまく作動してくれていると思うよ」
「なるほど……そういうわけだ、千世。今日のところはもう帰るぞ」
「あ、部活はどうなさるつもりですの?」
部活か……。
もし部活にいってこのことがバレたりなんてしたら……次の日に俺が間違いなく殺される。
今日の所は、『俺の身体の持ち主=千世』『千世の身体の持ち主=俺』ということになっているので、どちらをぶったたいたとしても、翌日に千世にダメージが加えられるのか、当日に千世にダメージが加えられるのか。
どちらにしよ、今日は俺を叩くことは出来ないだろう。
そこまでアイツらも非人道的ではない……はずだ。
「分かりましたわ……とりあえず、明日の朝にもう一度この部室に来ればよろしいのですね?」
「うん。それまでに、互いの身体を端から端まで探ってみては……?」
「嫌なことを言うなよ……しょうがねぇ。とにかく帰るぞ」
「あ、今部活に出ないと……確実に誤解されるけど? 二人一緒に、仲良く恋人同士で帰ったって」
なん……だと?
コイツと恋人同士なんて噂が流れてしまったら……校長に狩られる。
命むしり取られる!?
「……分かった、部活だけは行こう」
「そうですわね。私達が入れ替わったかどうかを見破ってもらうのもまた楽しみってことで」
確かにそれはそれで面白そうだな……。
いつもアイツらが俺達のことを見ていてくれているかどうかを判断するいい機会かもしれない。
もうそう考えないと……今日の俺は、部活に出る気になどなれなかったのであった……。