21,人格交換君って……
「あら……瞬一先輩、何故ここにいるのかしら?」
「お前こそどうしてここに?」
技術部の部室に行ってみれば、そこには千世の姿があった。
というか、何でこいつがここにいるんだ?
「ああ、校長の孫娘さんにもぜひ見てもらおうと思って……あ、僕がこの部の部長だよ」
そう言いながら、白衣を身にまといメガネをかけた、いかにも研究者という容姿をした少年が、俺に向かってそう言ってきた。
ついでに言うと、晴信達は先に部室に行ってるとか言って、先に闘技場に行ってしまった。
そんなわけで、俺はここに来るまで一人だったのだが。
「お前……部活はどうしたんだよ」
「この人に呼ばれたので、その用事が終わってから向かおうと思っていた所でしたのよ」
まぁ……恐らく事情は同じなんだろうが、だったらせめて誰かに伝えとけよな。
「……そうですわね。よくよく考えれば、部長である細川先輩には伝えとけばよかったですわ」
「……?」
なんか、今ちょっとした違和感を感じた気がするけど……まぁいいや。
「で、今日俺達を呼び出した理由ってのは一体何なんだ?」
これ以上二人で話していても進まないので、俺はメガネをかけた少年……ここは技術部の部長ということで、部長と呼ぶことにしよう。
部長は、俺達に話を切り出してきた。
「君達の目の前にある機械が、今回の発明品なんだよ」
「……機械?」
「ただ白い布が被さっているようにしか見えませんが……」
確かにそこには、何かがあるのだろうと思われる膨らみが見受けられる。
しかし、そこに何があるのかはまったく分からなかった。
何せ上から白い布が被せられているのだから、中身は相当秘密なものに違いない。
ひょっとして……でかさからして何かの転送装置か何かか?
「それではこの布をはがすよ……そりゃ!」
バッ!
勢いよく、その布は剥がされて、そこから出てきたものは……!!
「「……椅子?」」
なんか、機械がいっぱいくっついた椅子っぽいものがそこにはあった。
しかも、椅子は二つついてるっぽい。
……なんだこれ?
何かの転送装置という可能性は失せてきたな……なにやら頭上の方には謎の機械まで取り付けられているし。
「これは……名づけるとすれば、『人格交換君』です!!」
「「人格……交換、君……」」
……ネーミングセンス、皆無。
というか、人格交換って、簡単に言えば、心と心が入れ替わるとかいう、例のあれか?
「その通り! さすがはS組の方……察しがいい!!」
「あのな……お前、俺達をどうしたいんだ?」
「え? 実験体になってもらいたいんだけど……」
「お前らは俺達を何だと思ってるんだ!!」
他人に事情を言わないで、しかもいきなり実験体になって欲しいだと!?
図々しいにも程がある……というかその前に、非人道的だ!!
「なるほど……これを使えば、男の身体というのを見ることが出来るというわけですのね?」
「ちょ……ちょっと、千世さ~ん?」
やばい……千世が興味を持ってしまった。
しかも、何を血迷ったのか……男の身体(=俺の身体)に。
「お前、まさか……」
「やりましょうよ瞬一先輩! これをやれば、互いに異性の身体を理解することが出来るんですよ?」
「ちょっと待て! それはつまり、俺がお前の身体の中に入るってことも意味するんだぞ!?」
「……し、仕方ありませんわね。こ、この際、それも許しましょう。わ、私も、その……しゅ、瞬一先輩の……中に……ポッ///」
「おいゴラ! そんなのを勝手に決めてるんじゃねえ!! しかも、何か聞こえがかなりいやらしいぞ!!」
確信犯だろ、コイツ!
顔を赤くしながら、如何にもツンデレですといわんばかりの表情を見せながら……しかしセリフはこれだ!!
何がしたいんだよ……石塚千世!!
「助かるよ……さぁ、早くこの椅子に座って……」
「何勝手に俺を椅子に座らせようとしてるんだよ……待て、離せ! 俺はまだこの年で禁断の一線を超えたくはない!!」
なんとなく……例え他人の身体だったとしても、女性の身体になるなんて経験は、真っ平ごめんだ!!
他人の身体に入るのも嫌なのに……しかも女性のなんて……しかも、自分の知り合いの、後輩の、校長の孫娘の……。
「こんなのバレたら……校長に殺される」
「その時はその時ってことで……」
「他人事だからって偉く適当な接し方だなおい!!」
抵抗するも、他の部員達に捕まって、俺は無理矢理椅子に座らされる。
千世に至っては、少し顔を赤くしているが、何故だか凄く乗り気だ。
……コイツ、恥じらいって物を知らないのか!?
……まさかとは思うが、コイツもやはり……。
「あ、言い忘れてましたが、石塚さんはちょっと前に薬学研究会の方々に協力してもらって、性格を変える魔術薬を作ってもらい、それを飲ませました」
「アイツらぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
畜生……次に会った時には覚えて置けよ、あの女ぁ!!
そんな思いを胸に抱きながらも……無残にも俺の頭に、あの機械が取り付けられ、そして……。