17,交渉
「……あら? 入部希望者かしら?」
中に入ると、それはもう不気味だった。
外見通り、内装は黒を基本とした作りであり、照明等は最小限度しかなかった。
中では何やらフラスコの中でポコポコと泡をたてていて、何かしらの薬を作っているようだ。
思った通り……というレベルを遥かに超えて、思った以上のネクラっぷりだ。
そして、今俺達に話しかけてきたのは……黙っていたら美人に見えるだろうと思われる女子生徒だった。
けど……人を魅了するはずのその笑顔は、薬を片手に笑っているせいでもあるのか、寒気しか与えてくれなかった。
部員は4,5人と言った所だろうか……そして、何故にみんな女子?
「それじゃあ……新たな薬の実験を手伝ってくれる方かしら?」
「それならここに生きのいい被験体が……」
「……おい瞬一、自然と俺を差し出そうとするんじゃねえ」
「……ちっ」
「『ちっ』じゃねえよ!!」
「……なるほど、これはかなり面白そうなモルモットね……」
「待てや! もはや俺の存在価値は人以下動物以上というなんだかよく分からない立場にあるとでも言うのか!?」
「ハハハ! 面白い冗談じゃないか!!」
やはりコイツは、一緒にいるだけ楽しいなぁ。
更に追撃を試みてみよう。
「お前の存在価値は、人以下動物以下に決まってるじゃないか!」
「なぁんだそうだったんだ……って余計に酷くなってない!?」
「ああそうだが?」
「妙にあっさり答えるな、おい!!」
「……というわけで、晴信を差し出すから、少し話を聞かせてくれ」
「分かったわ……フヒヒ」
「勝手に話を進めるな!! それに最後の笑いはなんだよ!? 渋谷に住んでる、リア充目指しているオタクかなんかかお前は!?」
長いな……今回の晴信のツッコミ。
もう少し省略してもいいだろうに……まぁどうでもいいけどよ。
「まぁ前置きはさておき……ここから本題に入らせてくれ」
とりあえずふざけるのもここまでだ。
ただ単に、晴信を差し出しに来たわけじゃないからな……一応月夜の件で話があってここまで来たわけだし。
話を聞かないと、来た苦労が水の泡になってしまう。
「それで……私達に何か?」
「……今すぐ作って欲しい薬がある」
そう言ってから、俺は今までの状況等を伝える。
……何だか周りの部員達の挙動が怪しくなってきているのは、この際気にしないでおこう。
「なるほど……そんなことがあったのね」
「お前達は……これには関与していないんだよな?」
俺は直接、そう尋ねてみる。
すると、
「……ええ、そうね。私達は……知らないわ」
「「……」」
明らかに怪しい。
俺と晴信は、二人して頷いた。
まぁそう言うなら……それを前提にしてまずは話を広げてみるか。
「……んで、月夜は何の薬を飲んで、こんなになっちまったんだ?」
俺はそう話を切り出してみる。
すると、目の前の女子生徒の顔が緩み……途端に笑顔に変わる。
なんというか……不気味なほどに。
「恐らく、『惚れ薬』の部類の薬を飲まされた可能性が高いわね」
「やっぱりか……」
おおまかそんなところだろうと思ってはいたが、まさか本当にそうだったとは……。
ベタな話だぜ、まったく……。
「それで、解術薬は作れそうか?」
「……なんとかなりそうだけど、その代わりに条件があるわ」
「晴信でいいか?」
「それでいいわよ」
「ちょっとは迷ってくれよ!!」
あ~うるさい晴信は放っておいて。
「んじゃ……早速作ってくれないか?」
「……お安い御用よ」
そう言った時の女子生徒の表情は……何処か不満そうなものであった。
やっぱり……コイツらが犯人だろ、マジで。
そんな疑い(というかもはや確信)を胸に抱きながら、解術薬が出来上がるのを、部室で待つことにしたのだった。