16,薬学研究会
「……疲れた」
「お疲れさん、瞬一」
昼休みになるまで、月夜は相変わらずの調子だった。
俺にベッタリくっついて、愛の囁き(?)をしてきて、授業中にも関わらず、キスしてきそうにはなるし、挙句の果てには……ナイフを持ちながらウットリと。
「……俺の精神力は、もうもたねぇよ……」
「まぁ……好かれてるだけありがたいんじゃないか? 俺なんか今の里崎に近づいただけで、ナイフで牽制されるんだぜ?」
「いや、そっちの方が明らかに楽だ……お前もこの立場になってみれば分かるけど、相当精神力が削られるぞ……」
俺はただいま、晴信と一緒に校内を歩いている。
理由は簡単で、月夜に魔術薬を飲ませた犯人を探す為だ。
まぁ、他の奴でもよかったのだが……念のため、なぁ?
「……なぁ、何だか俺無性に寒気がするんだけど、気のせいか?」
「うん? 気のせいだろ」
「そっか……そうだよな!」
相変わらず立ち直りが早い男だ、宮澤晴信という男は。
これだから友達やってて飽きないんだよなぁ。
……もっとも、俺は今からその男を人柱的な役回りに持って行こうとしているわけだが。
ちなみに、晴信と一緒に行くと提案した時の女子組三人の目が……限りなく怖かったのは伏せておこう。
後、大和や大地、啓介に北条から言われた、『鈍感野郎』なんて言葉も無視無視。
何だか意味不明だし、聞き流したほうがいいという俺の防衛反応が正常に働いたため、無視することに決定した。
「まったく、お前も罪づくりな男だねぇ……何日間かで転入生を落とすなんてよ」
「だからそれは薬のせいでだな……」
「……そうじゃねえんだよな、これが」
「……?」
時々、晴信が何を言っているのか分からなくなる。
……あ、いつもか。
「さて、まずはどこへ行けばいいんだ?」
「とりあえず、薬関係だと……薬学研究会なんて行くのはどうだ?」
「お? それはいい案だな」
『薬学研究会』。
そこは、あらゆる薬を研究している……簡単に行ってしまえば、科学部の薬特化バージョンだ。
ちなみに、科学部もきちんと存在していて……少し内部分裂があることはここでは伏せておこう。
「確かに、あそこの連中なら薬に詳しそうだしな……」
「ひょっとしたら解術薬も作ってくれるかもしれないし」
教室に置いてきた月夜が若干心配だが、とりあえず俺と晴信がこれから行くべき場所は決まった。
さて、部室に誰か人はいるのかね……。
「ここか」
しばらく歩いた後に、問題のその部室に到着した。
そこは、何だか明らかに怪しい場所。
ここが本当に校内なのかと疑ってしまうほど、暗くて不気味な教室であった。
扉がある場所には、何故か黒いカーテンがかかっているし。
中からは光らしきものが見えてこない。
……ここはネクラ共の集まりか何かか?
「……さて、中に入るか」
「入るのか? ……この中に」
晴信が躊躇するのも無理はない。
何しろこんな部室だ……下手なお化け屋敷なんかよりよっぽど不気味だ。
月夜の用事さえなければ、俺だって入るのを遠慮したいくらいだもの。
「……けど、中に入らなければ、何も始まらない……それだけは、俺でも分かる」
「……言ってるわりに、足ガクガクだけどな」
……あれ?
おかしいなぁ……足が言うことを聞いてくれないぞ?
……決して強がりなんかはしていない。
しかし、足の震えが……止まらない。
「……ええい、行くぞ晴信!」
「あ……おい、ちょっと待ってくれよ!」
無理矢理震えを奥に引っ込めて、俺達は薬学研究会の部室の中に入った。