15,解術薬を探したいが……
「これは……治療は無理です」
「「「「……え?」」」」
俺達四人分の声が重なる。
あ、後の三人は、葵と織と春香のことだ。
晴信達にも来させようとしたら、月夜の姿を見て瞬時に断られた。
その時のアイツらのムカつく程爽やかな笑顔を、今でも忘れない。
「ていうか、里崎さんのこれは……病気じゃないわ」
「病気じゃないって……どういうことですか?」
理解出来なかった俺達を代表して、春香がそう尋ねる。
すると保健の先生は、こう答えた。
……と、その前に説明しなければならないことがあったな。
前まで保健室にいた吉沢先生は、とある事情があってこの学校から立ち去った。
代わりの先生をということで……今の保健の先生がやってきたというわけだ。
「これはね……魔術薬の影響ね」
「「「「魔術薬?」」」」
聞いたことのない単語が出てきた為、思わずそんなことを尋ねてしまう。
保健の先生は、そんな俺達にも分かりやすいように、説明してくれた。
「簡単に言ってしまえば……魔術師が作る漢方薬みたいなものよ。作り方はそんなに漢方薬と大差ないけど、使いたい効果に準ずる魔術をちょこっとかけて作られたのが……魔術薬というわけ」
なるほど……。
つまり月夜は、何かしらの薬の影響でこうなったというわけだ。
……やってくれるぜ、どこの誰が飲ましかは知らないけどよ。
「で、でも薬なら解毒剤とかあるはずじゃあ……」
「確かにあるわね。けど大丈夫よ。ほっとけば一日で治るから……まぁ、その間ずっとその状況だろうけど」
未だに俺に抱きついている月夜を見て、先生は溜め息混じりにそう呟く。
……それだけはマジで勘弁だ。
何せ月夜は転入生であって、しかもこんな性格だ。
男子からの評価も高く、狙っている奴も少なくない。
そんな奴らがもしこんな状況を見つけたならば……間違いなく俺は次の日から安心して登校出来なくなってしまう。
おまけに、月夜は月夜でいろいろて危険だし。
「……瞬一とずっと一緒になるには……やっぱりこれしかない……一番の愛情表現」
とか何とか呟きながら、ポケットナイフをウットリとした表情で眺めている。
俺に抱きつきながらも器用な奴だ……じゃなくて、コイツはかなり危険だ。
選択肢を間違えれば、きっと俺はお陀仏だ。
それだけは……絶対にお断りだ。
何せ前に死にかけたことだってあるくらいだし。
「……瞬一、月夜ちゃんの目が……その……」
「……ミナマデイウナ。ソノクライ、オレニダッテワカッテル」
葵が若干怯えているのも無理はない。
今の月夜は……なんというか、ナイフを眺めている目が、完全に据わっている。
正直、いつ殺されるか心配にすらなってきた……。
俺なんか、恐怖からか片言になっているのが自覚できた。
「とにかく、一日我慢するか……作った人に訴えて、何とか解術薬でも作ってもらうしかないわね……」
「……早めに解術薬を飲ませないと、今日一日中ずっとこのまま……」
もうすぐ授業が始まってしまうため、今からすぐには探すことが出来ない。
けれど、早めに薬を回収してしまいたい。
……それには、大和達の協力が絶対不可欠になってくるな。
「よし、何とか俺達で解術薬を探すぞ!」
「う、うん。そうだね……」
「このままの状態が続くのも、嫌ですし……」
どうやら三人とも納得してくれたようだ。
……よし、とりあえず今は教室へ戻ろう。
月夜は……本当ならこの保健室においておきたい所だけど。
「……月夜を置いていくことって、出来ます?」
「……駄目。私は、瞬一についていく」
「……」
駄目だ。
言うことを聞いてくれそうにないな。
そんなわけで、俺はこんな状態の月夜を連れて、みんなで教室へ戻ったのだった。