13,謎のやり取り
「例の薬が完成したんですか」
「はい……ですが、試すべき人間がいません」
「困ったわね……折角完成したこの薬を試す人がいないなんて……一大事よ?」
「どうしましょう……これでは折角作った薬が、無意味になってしまいます」
「そうね……なら、適当に誰かの水筒の中とかに混ぜてしまうとかはどう?」
「あ、それいいアイデアです! ……早速試してみましょうよ!」
「……いや、S組に転入してきたあの子とか、どんな反応するか見てみたくない?」
「……いいです! それ、凄くいいです!!」
「それじゃあ早速……都合よく水筒を持ってきているみたいだし、入れるわよ?」
「……はい! どんなデータが取れるか、見ものですね」
「そして、ゆくゆくは私も……ウフフ」
人はこれを、犯罪と呼ぶ……。
「ふぅ」
次の日。
俺は少し身体がだるい状態で学校にやってきた。
さすがに昨日の疲れは、一日寝ただけじゃあ取れなかったみたいだ。
魔力の方は回復したけど……どっちかといえば疲れの方が取れて欲しかったんだけどなぁ。
「けど、早起きしてしまうのが人の性って奴であって……うん?」
誰もいないと思っていた教室の中には、早くも誰かがいた。
えっと……月夜だな。
「おはようさん、月夜」
俺は挨拶の言葉を述べた後に、自分の席に座る。
……って、あれ?
「月夜……どうしたんだ?」
「……」
反応がない。
何と言うか……何かを我慢しているような、そんな感じだ。
顔は若干赤くなってるし……これは一体?
「まさか、熱が出てるとかか?」
「……ちが、う」
ようやっと。
月夜は短く、否定の言葉を述べた。
……熱じゃない?
なら、一体何なんだ?
「何があったんだよ、一体……」
「……あ、あ」
話せないらしい。
……大変だ、この状況は。
急いで保健室に連れて行かないと……!!
「月夜、今すぐ保健室に行くぞ!!」
「!! ……いい、行かなくても」
「はぁ? 何言ってるんだよ! その状況はどう考えても保健室に……」
無理やりにでも保健室に連れて行こうとしたその時だった。
パシッ。
「……え?」
突然、月夜が俺の手を握る。
そして、席から立ち上がり、
「……なっ!?」
ギュッ。
弱く、しかししっかりと、俺の胸に抱きついてきた。
……何この状況?
さらにカオスになってきたような気がするんだけど……。
「……月夜?」
「……」
しばらく黙ったままの月夜。
……ただでさえ黙っている月夜なので、何を考えているのかがイマイチ分からない。
……顔は相変わらず赤いままだけど、どうやら熱があるわけではなさそうだ。
見た目元気そうだし……これなら多分大丈夫……。
「……瞬一」
「うん?」
今、俺の名前を呼んだか?
……まぁ、下の名前で呼んでくれるのはありがたいな。
なんとなく、だけど。
だが、そんなことなど遥かにどうでもよくなるような、かなり問題のあるような発言を、月夜はしてきたのだった。
「瞬一……好き」
「…………………………………………………………………………………………………………はい?」
たくさん間を空けたと思う。
恐らく無言の時間が、10秒くらいは訪れたのではないだろうか。
月夜が……俺のことを好き?
何言ってんだか、コイツ。
けど……何でだろう。
かなり胸が苦しいのは……。
というか、声が声だけに……か、可愛い……。
「好き。どうしようもなく好き。殺したい程に……好き」
「……ちょっと待て」
今、『殺したい程に好き』とか言わなかったか?
……気のせいであってほしい。
というか、間違いであってほしい。
「……今、『殺したい程』って」
「……言ってない。多分気のせい」
「そ、そうか。ならいいや」
だよなぁ。
気のせいだよなぁ。
そんなこと、あって……。
「……瞬一君、これはどういうことなのか説明して欲しいなぁ?」
「……Sorry」
その時。
少女の殻を被った鬼が、教室の中に入ってきたのだった……。