12,試合終了と帰り道
「「……」」
沈黙が走る。
俺と石塚が共に放った最後の一撃は。
「……勝敗は、どうなったんですか?」
優奈のそんな言葉が聞こえてくる。
それに対して、葵は一瞬困ったような表情をした後に、
「……この勝負、両者相打ちにより、引き分け!」
……この勝負、引き分けに終わった。
俺の刀の刃先は、石塚の喉元近くまで来ている。
石塚の剣の刃先は、俺の腹部に確実に到達している。
……すなわち、この状況下だと、実戦でいえば二人とも死んでいる状態なのだ。
だから、この勝負は……引き分けに終わった。
「……強いな、石塚」
「貴方こそ……えっと、名前は?」
「俺か? 俺の名前は三矢谷瞬一……よろしくな、石塚」
俺はそっと右手を差し出す。
すると、石塚は。
「……下の名前でいいですわよ。べ、別に他意はございませんが……」
と、顔を赤くして言った後に、右手を差し出す。
「……よしっ!」
ギュッ。
軽く握って、俺は握手をする。
この握手は、勝負し終えた後の選手同士の握手でもあるし……。
今後この部活で共に過ごしていく上での絆を確かめる為でもあった。
「……さて、終わった所で自己紹介だ」
「ですわね。これから入る部活にいる人達を把握しなくて、一体どうしろって言いますの?」
その後、俺達は全員の自己紹介を済ませた後に、部活動を少し行って、そのまま下校した。
その下校での道のりにて。
「いやぁ今日の試合は見ていて面白かったなぁ」
「お前はそんなこと言えるけどよ、実際やってる身としてはかなり必死だったんだぞ……」
「そりゃ御苦労さん。まっ、俺は参戦してないから分からねぇけどよ」
そりゃそうだ。
帰り道、俺は晴信と二人で話をしていた。
理由は特にないが……まぁ同じ男子寮に住んでいるから、と言えばいいだろうか?
「まったく、とんでもない逸材がこの部活に入ったものだぜ」
「だな……校長の孫娘、か」
しかも実力で言えばかなりのものと来た。
部長である葵とも互角にやり合うとはな……アイツは一体、どこで戦闘術とか覚えてきたというのだろうか?
「そして新たなるフラグの予感……」
「死にたいか? 晴信」
「死にたくない。だから俺に向けてその刀の刃先を向けるんじゃねえよ! それは本当にヤバいから。刺された瞬間にお陀仏だから!!」
ちっ。
しゃあねえな……今日だけは勘弁してやっか。
「せめて今後もよろしくお願いします……」
懇願するような形で(いや、実際に懇願しているのだが)晴信は俺に向かってそう言う。
何と言うか……同情を誘うような言い方だな。
「さてと。明日の為にも今日は寮に戻ったら即寝るか」
「ん? 明日何かあったっけ?」
「特にねぇけど……今日だけでどれだけ魔力使ったと思ってんだよ……だからその補充」
「ああ、なるほどな」
俺達は身体の中に、生きていく上で絶対に必要な『生命力』と、魔術を使う上で必要で、生命力の一部を変換することで魔術を発動させることが出来る『魔力』を宿している。
『魔力』は一晩眠れば回復するのだが……奈何せん今の俺はその残量がない。
明日ぶっ倒れるのもしゃれじゃないから、俺は今日という今日は休ませてもらおう。
「んじゃ、達者でな」
「また明日な……晴信」
俺は晴信と別れると、寮の自分の部屋に向かう。
「石塚千世、ね……はぁ。また更なる波乱が訪れる予感……」
俺は今後訪れるであろう騒がしい日常を想像しながら、部屋内に入って行ったのだった。