6,里崎月夜
次の日。
俺はいつもより少し早目に教室にたどり着いていた。
特に理由があったわけでもないのだが……なんとなくだ。
すると、教室にはすでに。
「お?」
俺の隣の席が、埋まっている。
俺の席が窓側から一列目の後ろから二番目という位置にあるから、その隣にいる人物はもう限定されてくる。
「里崎か……」
昨日転入してきた女子生徒、里崎月夜。
とりあえず今の所分かっているのは、おとなしい・無口・美少女という点のみだ。
ああ、あと勉強はそれなりに出来るということのみだな。
そんな性格が吉と出ているのか凶と出ているのか。
男子生徒達の眼は……何やら輝いているようにも見える。
無論、晴信の眼もだ。
はぁ……アイツには刹那がいるというのに。
あ、刹那というのは、同じ魔術格闘部に所属している後輩の、植野刹那のことを示している。
コイツのことは、後ほどその妹の植野優奈と一緒に説明することにしよう。
今はとりあえず……里崎の方だ。
自分の席に座り、何やら本を読んでいる。
ブックカバーを付けている為何の本かまでは分からないが……サイズからして文庫本だろう。
「よぅ、里崎。おはよう」
「……」
俺の挨拶に気付いたのか、里崎はこちらの方を振り向いて、
「……おはよう」
と、短く言葉を返してくれた。
おお……意外と好感触?
他の奴らは、確か挨拶してもあまり返事が返ってくる様子がなかったのに。
大和とか大地とかが挨拶した時は、ちゃんとこういう風に言葉が返ってきたが。
……何かしらのオーラを感じ取っていたりするのだろうか。
「お前、朝早いんだな……」
「……そうでもない。前の学校でも、こんな感じ」
「そうなのか?」
「……大抵の場合、私が一番最初」
「へぇ~」
何が目的で一番最初に教室に入っているのかはともかく。
……それが毎日であったことに対する驚きを多少感じつつも、俺は別の方に話題を逸らすことにした。
「その本は何だ? 俺が来るまで読んでたみたいだけど……」
「……この本、面白い」
「そうなのか? なんて本なんだ?」
「……『ホームズ・ライド』。推理小説」
……何か、『ホームズ』って出てきたから、『シャー○ック・ホームズ』の方が咄嗟に思いついたが……そんなタイトルの本は聞いたことがないな。
「……シリーズ物になってて、結構面白い」
「へぇ~……今度本屋で探してみっかな」
少し興味を持ったから。
今度俺も本屋に行ったときに、探してみることにしよう。
「……ところで、一つ尋ねてもいい?」
「ん? ああ、別にいいけど?」
「……貴方の名前、教えて」
「……あれ?」
まさか、クラスメイトから名前を聞かれるとは思っていなかった……。
まぁ、昨日転入してきたばかりだから仕方がないか。
「俺の名前は三矢谷瞬一。よろしくな、里崎」
スッと、自然と右手を差し出す俺。
里崎は、一瞬どうしたらいいか迷ったが、
「……よろしく。私は里崎月夜」
と言いながら、そっと右手を差し出してきた。
そして、互いの手を握る。
……うん、これで俺達は、友人同士ってことでいいんだよな?
「これからもよろしくな、里崎」
「!!……月夜って呼んで///」
「ん? いいのか? なら、ありがたくそう呼ばせてもらうぜ、月夜」
「!?」
笑顔で里崎……改め月夜の名前を言ったら、何だか突然顔を赤くした。
……いきなりどうしたと言うんだ?
「あ~あ、またフラグ成立させ始めやがって……」
「……晴信、来て早々ぶっ殺してもいいか?」
俺は、そんな中に乱入してきた晴信を、優しく教室の外に突き出した。
……無論、ライトニングを放って。