4,呼び出し
結局、あの後晴信は、里崎の隣の席になることは出来なかった。
一瞬にして落ち込み、
「俺の青春を……帰せ」
なんてうわ言を言っている。
そして、当の本人である里崎は……。
「ねぇねぇ、出身ってどこ?」
「血液型は?」
「彼氏はいるの?」
「スリーサイズは? ……ハァハァ」
「俺とやらないか?」
「美少女キターーーーーーー!!!!」
「日本始まったよコレ!」
……俺の隣の席で、とりあえず危険なことばかりを尋ねられていた。
なんというか、最後の方はもはや質問とは呼べないが……。
よくS組に入れたものだ、こいつら。
「……私、トイレに行きたい」
「ど、どうぞどうぞ!!」
「遠慮なく!」
……相手にもしないとは。
さすがは里崎、男子など眼中にないと……そういうことなんですね?
「おい瞬一……テメェよくもまあいけしゃあしゃあと里崎の隣の席に座ってやがるなゴラァ!」
「……いやいや、これも運だろ」
「テメェは女性運は物凄くあるんだよ!!」
「日頃の行いだ。そうひがむな」
「そんなに俺悪いことしてねえぞ!」
そう自分を美化するなよ、晴信。
お前は……真性の変態だから仕方がないことなんだから。
「お前、今俺のことを変態だとか思っただろ?」
「え? 違うのか?」
「違わないけどそれを強調するんじゃねぇ!!」
……まったく、面倒くさいやつだ。
ああ言えばこう言う。
本当に面倒くさい。
「……瞬一」
「ん? 何だ葵?」
その時、俺は葵に声をかけられる。
……心なしか、その表情は怒っているようにも見える。
……怒ってる?
何で?
「へっ! 葵が怒るのも無理ないな!」
「なんでだよ……」
まったくもって理解出来ない。
これまでの会話のどこに、葵が怒る要素があったというのだろうか。
「私だけじゃないよ」
「は? ……って、え?」
他にも、織・春香の二人が怒りの表情を見せている。
……だからどうして、俺が怒られなければならないんだ?
「ハァ……少しは乙女心というのを理解したらどうなのよ?」
何か、呆れられながらも北条にそう言われた。
……一番常識なさそうな奴に言われるのは、かなりつらい。
「まぁ、瞬一も女の子には気をつけろってことだよね」
「……大和に言われると一番心に響くな、何だか」
「瞬一君、今は大和君達の話を聞き流している場合じゃないでしょ?」
……何か、こっちを見ながら織がそう言ってくる。
……こう言っては失礼だが、あまり怖くはない。
むしろ、可愛い方かもしれない。
「……今、コイツが猛烈に羨ましくなって来てたまらないのだが……殺していいか」
「俺が認める。だから俺も協力させろ」
……何だろう。
周りのクラスメイト達が、やけに俺に殺気を向けてくるのは何故だろう。
この教室にいたら、俺は殺される。
心なしか、そんなことを思い始めていた。
そんな時だった。
ブゥウウウウウウウウウウウウウウウ! というこの学校独自のチャイム音が鳴った後に、
『魔術格闘部の部員達は、至急校長室に集合! 繰り返す……』
「魔術格闘部の部員が全員集合? 何の話だろう……」
運がいいのか悪いのか。
ここで教師からの呼び出しがかかる。
……少なくとも、このクラスの奴らからは逃げ出すことが出来るというわけか。
「そういうわけだ。行くぞ、晴信達」
「あ、ああ」
「「「……」」」
いぶかしげな眼で俺をにらみながら、葵達女子三人組が俺の後をついてくる。
……何だろう、この妙な感覚は。
その途中で、里崎とすれ違ったのだが……。
「……」
「……?」
何やらこっちを振り向いたかと思えば、すぐに教室の方へ戻ってしまった。