3,さらば青春
さて、今はHRの時間だ。
朝から教師の話を聞かなければならないという、面倒な時間だ。
ああ……それにしても眠い。
まだ始業式が終わってから一日しか経っていないというだけあって、連絡事項も少ないし、眠ってしまっても問題はないだろう。
「では最後に、転入生を紹介したいと思います」
……転入生?
その単語が聞こえた時、俺は多少の興味を持った。
ただ、周りの奴らは『多少』じゃあ済まなかったようで……。
「先生! 転入生は美少女ですか!?」
「何言ってるのよ! 美少年に決まってるでしょう!」
「けど、大和君以上の美少年はいないわよ!!」
……最後のは北条のやつか。
それ以外は、男子と女子による転入生がどちらの性別なのか対決となっていた。
……なんだろう、織が転入してきた時よりも、興奮してるような気がするぞ、こいつら……。
「……瞬一、お前実は転入生と知り合いでしたってオチはないだろうなぁ?」
「あるわけないだろう……まだどんなやつがやって来るのかも分からないのにそんなことを尋ねてくるんじゃねえっての」
まったく。
晴信のやつは一体俺のことをどういう風に見てやがるんだよ……。
って、なんだか何処かから殺気にも似た眼差しが……!!
俺はその方向を振り向いて見る。
すると、そこには……。
『……瞬一、もしも転入生と知り合いだった場合は……分かってるよね?』
『瞬一君……これ以上ライバルを増やさせないでくれるかな?』
『……瞬一君、私、信じてますからね?』
葵と織の二人分の殺気と、春香の何を信じているのだかよく分からないような視線が、俺に突き刺さる。
……というか、今更ながら目と目を合わせただけで相手の気持ちが分かったのって……凄くないか?
……まぁ、なんとなくで、だけど。
「ほら、静かにしろ!」
「静かにしなさい!」
……ああ、琉川もやっぱりちゃんといるんだな。
あ、琉川というのは、二年S組の時に同じクラスであり、風紀委員を勤めていたやつのことね。
とにかく、担任教師と琉川のおかげで、なんとかクラスメイト達は大人しくなる。
……未だに謎の視線は突き刺さってくるが、まぁこれは百歩譲って許してやるとしよう。
「……じゃあ、入ってきていいぞ!」
担任が教室の扉の外にいるだろう人物を呼ぶ。
すると、少し間を開けた後に、ガラッという音がして、扉が開かれた。
「いゃっほ~い! 女子だ、しかも美少女だ!!」
「ついに俺にも春がキターーーーーーーーーーーーー!」
「見える……見えるぞ! あの子と俺の、幸せな未来が!!」
男子かなり大興奮。
女子は少し残念がっている。
……まぁ、俺もあの子は可愛いと思うな。
「「「……!!」」」
「!?」
……自重しよう。
でないと、三人の視線に負けてしまいそうだ。
「今日からこのクラスで勉強することになった……里崎月夜だ」
「……月夜。よろしく……」
恥ずかしいのか、顔を仄かに赤くしながら、俯き加減にそう答える。
……ヤバい、これはドツボに(((ギン!!)))……来ませんよ、ええ。
だからその、視線だけで人を殺せるようなことをするのはやめてくれない?
……さて、転入生の容姿等について語ってみると、身長は少し小さめであり、胸はそれなりに大きい。
長い黒髪で、瞳の色も黒である。
性格は大人しくて、無口そうだ。
なんというか、図書館とかで出会ってもおかしくはないような感じと言えば分かるだろうか?
……一言で言ってしまえば、寡黙な美少女というところだろうか?
「じゃあ空いてる席と言えば……とりあえず宮澤の隣に座っていてくれ」
「よっしゃあ~! ついに俺の春が……キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
……右手拳を天に向かって上げている、何とも馬鹿馬鹿しい光景が目に入ってきた。
……正直、目に毒なんでやめて欲しいです。
「さて、里崎も座ったことだし……今日は早速席替えするぞ~」
「……」
さらば、晴信の青春。