23,帰還
あの戦いが終わってから、数日が経過した。
私はあの日以来、しばらくの間、この光の力を使いこなせるように訓練を積んでいた。
そして……ついに。
「……ふむ。この位でよろしいでしょう」
「そ、それじゃあ……」
「はい。貴女を元の世界に帰らせてあげましょう」
「……や、やった」
ついに……帰れる時が来た。
私……とうとう元の世界に帰れるんだ。
時期としては大分ずれてしまったけれど、それも仕方がない。
けれど……もっとかかると思ってた。
何年も、何十年も……そんなにかかるかと思ってた。
けれど、この短期間で帰れたことは……唯一の誇りと言ってもいいだろう。
私にとって、この世界で過ごしてきた時間は……貴重なものであった。
光の器という存在が、世界にとってどれほどのものであるかも理解することが出来た。
……それから、私に眠る力が、私にとってもどれほどの影響を与えるのか、も。
「おめでとうございます、葵さん」
「麻美ちゃん……麻美ちゃんとは、ここでお別れなの?」
「……はい。私はこの世界に居残りますので」
「……そっか」
麻美ちゃんとここでお別れになってしまうのは、寂しい。
けれど、私の帰るべき場所は……すでに用意されているのだ。
私はそこに帰らないといけない。
……帰るべき世界に、帰らないといけない。
「私はまだまだかかると思っていたのですが……思っていた以上に早かったですね」
「頑張ったから……瞬一がいる世界に帰れるように、頑張ったから」
「……羨ましいです。帰りを待ってくれる人がいることは」
「何言ってるの麻美ちゃん。また由雪君が会いに来てくれるって言ってるんだから、そんなこと言っちゃ駄目じゃない」
「そ……それは確かにその通りなのですけど、しかし……!!」
「ほぅ……恥じているのですね」
「///」
恥ずかしいのか、麻美ちゃんは顔を赤くしてどこか明後日の方向に向けてしまう。
……そんな麻美ちゃんは、やっぱり純情で、可愛いなぁ。
「さて、元の世界に帰ってから注意する点が二つあります」
「……うん」
「一つ目は、この力をなるべく使わないことです。いくら使い方に慣れたと言っても、元の世界には適合しない力……その力は、元の世界で使用した場合には、命の危険に晒されることにもなります。ですから、本当に必要となった時以外は、なるべくその力を使用しないようにしてください」
「……分かった」
「そして二つ目なのですが……」
アルカ様は、そこで言葉を区切る。
そして、言った。
「……くれぐれも、不幸のないよう、幸せに過ごしてくださいね」
「!! ……うん!」
それは、アルカ様からの、『女神』としてではなく、『一人の女性』としての言葉だったと思う。
その笑顔が優しいものだったのは、きっと気のせいではないのだろう。
「では、行きなさい……この神殿の出口を抜けたら、きっとそこは元の世界に通ずるはずです」
「……はい」
ここから出ると、もうこの場所には戻れない。
けれど、ここを出ないと……元の世界には戻れない。
せっかく手に入れた友達を置いてこの世界から立ち去るのは心残りがあるけれど、麻美ちゃんにとっては……ここが居場所なのだ。
瞬一達と一緒に過ごせば、きっと瞬一のことを新たな居場所として認識し始めるのだろうけど……それでは駄目なのだ。
麻美ちゃんにとっては、ここが居場所であり……『由雪迅』が居場所なのだ。
元の世界に帰るだけでは、意味がない。
だから、私だけが帰る。
麻美ちゃんは残る。
「……元気でね、アルカ様、麻美ちゃん」
「「……はい」」
二人とも、笑顔で私のことを、見送ってくれた。
そして物語は、終幕へと語り継がれる。
「……済まなかった、葵」
雪が降る真冬の日。
闘技場のど真ん中に立ち、懺悔の言葉を述べる少年が、そこにいた。
そして少年が、
「……また会おうぜ、葵」
と告げて立ち去ろうとしたその時に。
『―――瞬一』
少女は、その少年の名前を、静かに告げた。
《第一部 完》
というわけで、第一部完結です。
第一部の中心は、葵と麻美というわけで、本来の主人公である瞬一は、最後に二言喋っただけです。
……どうしてもこの話だけは語りたかったので、こうして『Magicians Dream』という形で新連載とさせていただいたわけなのですが、最後の方がどうしても駆け足気味になってしまったのは……誠に申し訳ございませんでした。
これらかはもっと精進していきたいと思いますので、どうかよろしくお願いします。
さてさて、『Magicians』と冠した作品の第二弾というわけなのですが、正直申しまして……連載終わるか不安です(え)。
なにぶん、大学受験の関係もありまして……どう引き延ばしにしようが1学期期末試験終了時までしか小説執筆活動を続けることができません。
ですので、この小説自体が終わるのかどうか、実は不安でしょうがないのです。
そんなわけで……この小説は予定では三部に分かれて連載する予定なのですが、第二部を学園編にしたいと思います。
学園編は、一学年あがった瞬一達を中心に進めていく話です。
ですから、これからが『Magicians Circle』の続編的内容と考えて頂いてもよろしいでしょう。
第二部は長くなるとは思いますが、どうか最後まで応援よろしくお願いします。
第三部の内容につきましては……今の所は未定です(考えようぜ!)
それでは引き続き、『Magicians Dream』をお楽しみください。