20,想いの力
「……え?」
驚きの声は、背後にいる男の人からでもあったし、敵からもだった。
何せ今までろくに力をコントロール出来ていなかったような少女が……こうして力を使おうとしているのだ。
もしもこんな状態を見ているのが私だったた、そうだとしても驚いていることだろう。
何故なら、こんな状態になった自分自身が……一番驚いているのだから。
「想いの強さが……力に結び付けたのか。ならば、想え。どんどん想え。自分はこの地から脱出することが出来ると……目の前にいる敵を倒すことが出来ると、強く想うんだ」
「強く、想う……」
男の人の言葉は、正しいと思った。
想う事こそ……力になる。
それは、誰に教わったものでもないけれど……この世で生きていく上で必要なもの。
「行くよ……ここからが、反撃開始だからね」
「覚悟しとけよ堕落世界の奴ら共。俺達は……絶対にお前達を倒して、この世界を守ってみせるからな?」
これは、私達の……未来を守る為の戦い。
私は元の世界に帰るという未来の為。
この人は、自分達の居場所を確保するという未来の為。
そして相手は……この世界を破壊するという未来の為。
それぞれの抱く『未来』をかけた……世界と世界を結ぶ、戦い。
本来なら、こんなことはありえないはず。
けれど……ありえているのだから、仕方がない。
どうせなら、私は最後まで戦う道を選ぼう。
それが……今の私に出来る、最善の選択なのだから。
「光の刃よ。降り注げ!」
「朱と交わり、赤となせ!」
私の詠唱によって、上空には無数の光の刃が。
相手の詠唱によって、私達の目の前には赤く塗られた刃が。
それぞれ数は同じだけ。
……大丈夫、同じ数だけあるのなら、勝てる!
「ぐはっ!」
ガガガガガガガガガガガキン!!
ぶつかりあう音が響き渡る。
……私の刃は、相手の刃を悉く打ち消す、いや、斬る。
刃が刃を斬るなんてことは……普通はないだろう。
しかし、それが現実。
私の刃は……決して弱くなんかないって証明!!
「よしっ! 君はそのまま直進していけ! この場は俺が何とかする!」
「分かった!」
言われたとおり、私は直進する。
……いや、直進するのでは駄目だ。
このまま行くと、確実に敵に囲まれる。
空から行くべきだ……飛んで山頂まで行くべきだ。
「敵の本拠地はこの山の山頂だ……何としても向かってくれ。何人かがすでに山頂まで到達している頃だろうから……そこで合流してくれ!!」
「……分かった。やってみる!」
念じるんだ……私は空を飛べる。
空を飛んで……山頂へ行く。
絶対に……この戦いを、終わらせる。
「……うわぁお」
瞬間。
私の背中から……光を帯びた羽が生える感覚を感じる。
これが……光の器の力で創り出した、光の翼。
「逃がすな! 敵は空から山頂へ向かう気だぞ!!」
「何としても空へ飛ばしてはならぬ! 撃てぇええええええええええええええ!!」
「させるか!!」
私は……この喧騒の中で、空へ飛ぶ為に、足でタンと地面を蹴る。
すると、私の身体は、面白いように宙へ浮かんだ。
その際に……無数の銃弾が私に襲い掛かってきたけど、男の人が発動させてくれた誘導魔術により、その弾は見当違いの方向へと飛んでくれた。
……行ける、これなら、行ける!!
「……くそっ! 完全にやられたぞ!!」
「軍勢を引き戻せ! 山頂付近で固めるんだ!!」
「畜生、由雪の奴は一体何をやってるんだ!?」
……由雪君の名前が出てくるとは少し意外だった。
……けれど、今はそれどころじゃない。
一刻も早く、この戦いを終わらせる為に……この山の頂上へ向かわなければならない。




