17,不発
Side麻美
今この場にいるのは、私と迅君の二人だけ。
……勢いで二人きりになってしまったけど、いざこういう状況に陥ってしまうと、なんだかこの後どうするべきか分からなくなってしまう。
「……おい、寺内」
「は、はい。何でしょうか?」
私は迅君に呼びかけられる。
反応すると、迅君は私にこう言った。
「……どういうつもりなんだよ、お前」
「え?」
「俺と二人きりになって……お前は一体なにがしたいんだ?」
「……私は、迅君との決着をつける為に、ここに残ったんです」
「俺との決着?」
正確に言えば、迅君との決着なんかではなく……私自身の過去との決着。
迅君にとらわれたままの私の心との、決別。
「私は、今のままではいけないんです。今もこうして迅君と対立しているというのに……心のどこかでは迅君を傷つけたくないって思っています」
「……そうかよ。けど、俺は容赦なくお前を傷つける。必要あるならば、殺すぞ」
「それで……いいんです。そうしてくれた方が、私もさっぱり想いを断ち切ることが出来ますから……」
これが本当に、断ち切るべき想いなのかは分からない。
けれど、今私は……こうして迅君の前に立っている。
迅君は、鎌を持つ手に力を込める。
……私に、出来るだろうか。
戦うことが、出来るだろうか……。
「……どうした寺内。動かねぇのかよ。今なら命乞いさえすれば、お前だけでも生かしてやってもいいんだぞ?」
「……いえ、大丈夫です。攻撃は私からでいいんですね? ……わかりました」
スッと、私は手を前に突き出す。
迅君は、私のそんな行動の意味が少し理解出来なかったみたいだけど……今はそんなこと関係ない。
分からないのなら、こちらにとっては尚更都合がいいのですが。
「浄化の光……彼の者に眠る闇を浄化せよ」
「その詠唱……光魔術の」
「……まだうまく使いこなせていないどころか、発動すらさせたことはありませんが」
突き出した右手から、魔法陣が出現する。
発せられるのは、光。
……出来るかどうかわからないけど、やってみるしかない。
でないと、ここで私は……殺される。
「シャインライン!」
放たれる光の線。
……それは迅君の身体を貫かれる……はずだった。
「……どうした、その程度の力しかないのか」
「……う」
駄目だ。
私の力じゃ……まだ実現不可能だ。
こんな小さな光の魔術も……完成させることすら出来ない。
「折角の攻撃も、俺を目前にして消滅しちゃあ意味がねぇだろ……ったく、そこまで俺に殺されたいらしいな」
「……や、違う」
何で……何でこんな大事な時にも、力が引き出せないの?
駄目なのに……今ここで死ぬわけにはいかないのに。
こんな所で死んだら、葵さんに迷惑かけちゃう……。
だから、私はここで倒れるわけにはいかない……!!
「……迅君、私は決めました。貴方に負けない為に……ここで精いっぱい抗ってみせます」
「……来るならいつでも来い。ただし、俺は手加減なんて言葉は知らねぇからな」
「分かっています。いえ、そうしてくれるとありがたいです。手加減された状態で勝っても……何の意味もないんですから」
私は本当の意味で迅君に勝たなければならない。
だから……私は戦う。
「……ここからは全力で勝負します。ですから、迅君も全力で勝負しに来てください」
そう言いながら、私は右手に剣を出現させる。
「……いい心意気だ。この俺が直々に引導を渡してやる」
そして、私達の戦いが……始まった。