16,決意
バン!
「ど、どういうことですかアルカ様! 精霊山を抑えられたって……!!」
「どうしたもこうしたも、そのままです。精霊山に偵察に行っていた者からの連絡がありまして……精霊山が堕落世界の者達に占領されたとの情報が……」
精霊山を抑えられたのは……相当痛いだろう。
なぜなら、山というのは相手にとっては籠城戦に役立つうってつけの舞台なのだから。
それに、精霊山はこの神殿までの距離も近い。
攻めにも向いているし、守りにも向いているのだ。
……相手の方が一枚上手だったらしい。
さすがにこうなってしまっては、山を取り返すのは少し難しい。
「仕方ない……精霊山の件は諦めることにしましょう。まず私達がやるべきは、軍の編成です」
確かにその通りだ。
相手は堕落世界の人達だ。
冷静に作戦を立てなければ……すぐに負けてしまうことだろう。
「……まずは先鋒隊に向かわせて、敵の前線を叩きます。その後で、中隊が相手の残りの兵を倒し、後続体が相手大将を打ち取る……恐らく決戦の舞台は山となるでしょう。ですからみなさん、早く準備をしてしまってください。私達はこれから、山へと向かいます!」
「ま、待って! アルカ様はこの神殿からどこかへ隠れた方がいいよ!」
「……何故です、葵さん?」
もし、敵が精霊山から攻めてくるのだとしたら……敵の姿を完全に捉えられるか難しい所だ。
だから、もしも相手を倒すことに失敗したら……その兵はすぐにここに攻め入ってくるだろう。
そうなってくると、このままの軍編成ではアルカ様を守れなくなる可能性が出てくる。
……敵の方が優位に立っているこの状況なのだ、慎重に行った方がよいだろう。
「ふむ……本当に面倒なことになったものですね。いいでしょう、私はこの場所から別の場所へと向かいます」
「その必要はない。何せ、これから俺がアンタの首を頂くんだからな」
「「……なっ!?」」
誰かの声が、神殿の中に響き渡る。
その声の主は、私達が一番よく知っている人物だ。
そして、今この場においてもっとも会いたくない人物。
「……よう、大将。アンタの首、もらいに来たぜ?」
ゆっくりと歩きながら、闇の中から姿を現したのは……由雪迅だった。
両手でしっかりと鎌を握っていて、いつでも殺せるように準備していた。
目からはあふれんばかりの、殺気。
あの目は……並大抵の人なら動きを封じることが出来る、それほどの鋭い眼光。
「……みなさんは先ほどの作戦通りに配置について……突撃してください。私はここで、この者の相手をします」
「ま、待ってください! 由雪君の相手は……私にさせてください!」
「……え!?」
「寺内、お前……」
麻美ちゃんからのまさかの提案に、私はおろか、由雪君もアルカ様も驚いてしまう。
……少し黙った後に、アルカ様は言った。
「この場は麻美さんに任せましょう……私はどこか別の場所に隠れます。葵さん、護衛をお願いします」
「うん! ……くれぐれも麻美ちゃん、気をつけて」
「大丈夫です……絶対に、アルカ様の所へは行かせませんから」
麻美ちゃんがそう言ったのを受けて、私とアルカ様は神殿から外へと出る。
……その直前に見せた麻美ちゃんの表情は、決意に満ち溢れていた。