15,占拠
次の日。
今日も私達は鍛錬をしていた。
「……ふぅ」
「疲れましたね……今日はこのくらいにしておきましょうか?」
辺りはすでに暗い。
完全に真っ暗というわけではないけど、もう外で活動するべき時間帯ではないことは確かだった。
……それにしても、本当に分からない。
光の器の力をどう引き出せばいいのか……私達は未だにそれを掴むことが出来ずにいた。
「このままじゃ、私達が力の使い方を理解する前に敵が攻めてきちゃうよ……」
「そしたら、私達は戦えませんね……どうしましょう?」
「何としても、早い内にマスターしちゃうのよ。でないと、由雪君達が攻めてきちゃう」
「……」
由雪君の名前を出した時。
わずかながら、麻美ちゃんの眉が動いた気がした。
それだけ、由雪君と再会出来たことが嬉しくて……悲しかったのだろう。
折角再会出来たのに、次に会う時には敵同士として対立しなければならないのだ。
下手すれば、命のやり取りをすることだって……。
「……大丈夫です。その時は、私も戦いに参戦しますから」
「……ねぇ麻美ちゃん、無理してない?」
「え?」
「だって、今まで麻美ちゃんにとって由雪君は居場所だったんでしょ? そんな由雪君と戦うのって、辛いんじゃない?」
もし私が、瞬一と戦わなくてはならないと言われたら……拒絶したくなると思う。
目の前の現実から、逃れようとしている所だろう。
けど、麻美ちゃんは戦う道を選んだ。
それはどれだけ勇気のいる行動なのか、私は十分に理解することが出来た。
「……確かに、辛いです。ですが、私はけじめをつけるという意味でも、由雪君と戦う必要があります。これ以上、不自然な想いを引きずるわけにはいきませんから」
「麻美ちゃん……」
引きずる想い、か。
過去に決着をつけたいと思う麻美ちゃんの気持ちを踏みにじるわけにはいかない。
だから私は、ここは何も言わないでおこうと思う。
それだけしか、私に出来ることはないのだから。
「こ、ここにいたかお前達!」
「……へ?」
「アルディーアさん?」
その時、男の人が私達の所までやってきた。
麻美ちゃん曰く、この人はアルディーアさんと言うそうだ。
「そんなに慌てて……何かあったのですか?」
「あ、アルカ様に言われてお前達を呼ぶように言われた……今すぐ神殿に来てほしい」
「神殿に? 何が起きてるの?」
「……堕落世界の奴らに、精霊山を抑えられた」
「「え!?」」
私達は、アルディーアさんについて行き、アルカ様のいる神殿へと向かった。
Side由雪
「第一段階は完了だな」
精霊山を占拠した俺達は、ここを拠点に攻め入ることとなる。
……こんな山を拠点にするとはな、面倒くさいことを考えつくものだ。
「残念ながら地の利は俺達の味方をしてくれない。だから、例え地の利が働いたとしても、多少なりとも有利になるようにこの山を拠点とすることを選んだ。ここならば、近くに神殿もあるから安易に攻め入ることが可能だし、籠城にも向いている……その点でも、俺達にも多少勝機が向いてきているということだ」
「もっとも、俺達が負けることなんて考えられないけどな」
俺はそう答える。
確かに、この場所は俺達にとっては好条件だ。
敵軍本拠地に攻め入ることも可能で、攻められたときに籠城戦を行うことも可能だ。
……しかも、今は夜。
勝機は間違いなく、俺達にある。
「けど油断はするな。この地は光の者が集う場所だ。例え今が夜中だとしても、光の加護がないわけではない。簡単には倒せぬ相手であることを重々承知するように」
「……分かってるよ」
勝てると分かっている戦い。
けど、この戦いに……本当に意味なんてあるのだろうか?
それに、何でかは知らないけど、俺はこの戦いに参加することをあまり好んではいない。
面倒くさいというのもあるけど……何よりも。
「おい由雪。そろそろお前の出番だぞ。早い所敵大将の首をとってこい……いいな?」
「……分かってるっての」
ったく、人遣いの荒い連中だ。
とりあえず俺は、山から一旦下山して、敵の本拠地である神殿へと足を運ぶ。
……そこに寺内がいないことを若干祈りながら。