29,決着
「「……」」
互いに動かない。
その場に立ち尽くしたまま、二人は動こうとしなかった。
否、動けなかった。
今すぐ追撃を行いたい、しかし魔力は底を尽きかけている。
やがて葵の方は……制限時間も過ぎてしまい、そのまま元の姿に戻ってしまった。
それこそが、葵の負けた証だった。
「ふ……ふははは……ヒャアハハハハハハハハ! 勝った! 光の器に勝てたんだ! 忌々しき対を為す存在との戦いに、とうとう勝てたんだ!!」
一人舞い上がる勝弘を前に、葵は絶望を感じていた。
自分は……全力を出しても目の前の敵を倒すことが出来なかった。
その事実は、彼女の頭の中でグルグル渦巻いていた。
「………おい」
「うん?」
だが、葵の失敗を打ち消すかの如く、刀を出現させた瞬一が勝弘目掛けて走ってきて……そのまま心臓に近いところに刀を刺す。
そしてその傷口から電流を流し、勝弘はかなり苦しそうな声をあげて……気絶した。
「……これで、完璧に終わったのか?」
しばらく静寂の時間が過ぎた後で、晴信がポツリと呟く。
終わりにしてみれば、実にあっけない終わり方だった。
誰もが想像していなかった幕の閉じ方だっただろう。
しかし、何がともあれ、これにて今回の事件は、幕を閉じられたのだった。
「どうする? コイツ」
晴信が大和達に尋ねる。
すると大和と大地が動きだし、
「後は僕達がやるよ……そうだ。一時的に吉沢茜を釈放してもらうことにしよう。彼の話だと、吉沢茜は薬を作ることが出来る数少ない人物らしいし」
「いいのか? 前にその案を出した時には、お前達は力がないから無理だとかの話だったけど……」
瞬一がそう尋ねると、大地は決意を秘めたかのような表情で、こう言った。
「前までは無理だと思っていた。事実俺達は下っ端のような存在だからな……話すら聞いてくれない可能性がある。けど、やってみなくちゃ分からないよな……何事もやってから言わないとな」
「大地……」
「そういうわけだよ。だから僕達は下柳を『組織』に連れて行くついでに、交渉してみるよ」
「ああ、頼んだぞ」
勝弘のことを大和・大地に任せて、瞬一達は葵の元へ駆けつけた。
「大丈夫ですか? アオイ!」
「う、うん……なんとか大丈夫……だよ……」
「そんな無茶をするからですのよ! 葵先輩は少しは自分の身体のことも考えてくださいまし!」
心配するようにそう言うのは、アイミーンに千世だ。
晴信はそんな彼らを見守っているし、月夜は葵の頭を優しく撫でていた。
「お疲れ様、葵」
「最後に決めたのは結局瞬一だったね……今回はおいしいところ持っていかれちゃったな……」
「何言ってんだよ。今回のはお前の手柄だっての」
笑いながら、瞬一と葵はそんな会話をかわす。
こんな光景……つい数分前までは想像も出来なかったことだ。
しかし、葵は宣言通りに生きて帰ってきた。
約束は、果たされたのだ。
「それじゃあ約束を守ったということで、今度の日曜日に二人でデートしない?」
「「「で、デート!?」」」
「うおっ!? 耳元で叫ぶなよ……ってか葵、デートってどういうことだよ!」
「言葉通りの意味だよ?」
顔を赤くして叫ぶ瞬一に、葵はケロッとした様子でそう言い放つ。
これには、月夜・千世・アイミーンの三人は……怒っている様子だった。
「いや、これは葵が言いだしたことであって、俺は……」
「「「問答無用!!」」」
「俺は何も悪くねぇ!!」
その言葉を最後に、瞬一は三人に天誅を下されることとなるのだった……。