27,光・闇
「……ちょっと待ってください。なんですか……あれ?」
「……あれは、前にも見たことがある……あれは確か……光の器の力が暴走した時の姿……」
目の前にいた少女は、果たして本物の天使だった。
髪は金色で腰の辺りまで伸びていて、着ている服は白いワンピース。
見ているだけで分かる程、彼女は光輝いていた。
「その光……目障りだ!!」
勝弘が、黒い弾を数発出現させると、葵目掛けてそれらを撃った。
しかし……葵は動かずに、それらを目の前で処理してみせた。
「なっ……!?」
千世が驚くのも無理はない。
何故なら葵は、身体のどの部分も動かさずに、オーラだけでそれらを打ち消してみせたのだから。
「……覚醒したか。厄介な展開に脚本は改変したものだ。これはよほどこの世界の神は気まぐれな存在らしいな」
だが、と言葉を繋げて、勝弘は更に続けた。
「我とてそのような緊急事態を楽しむ余裕がないわけではい……むしろ、戦いはこうではなくてはならないな!」
こうして勝弘が語っている間にも、葵は徐々に自我を失いつつあった。
「(もって後三分……自我を保っていられる内に、一気に叩かなければ……負ける)」
せめて悪魔を勝弘の身体から抜き出してあげれば、勝弘はいくらか楽になることだろう。
そんな可能性にかけつつ、葵はその身体を、動かした。
制限時間三分の戦い。
葵はそれを承知の上で……相手に戦いを挑んでいるのだ。
「行くよ……私の全力を以て、相手をしてあげる―――!!」
「あ、葵! 大丈夫なんだろうな!!」
動こうとした所で、瞬一の声が耳に入る。
そこで葵はいったん止まって、瞬一達の方を眺めてから、
「大丈夫だよ、みんな。私、ちゃんと帰ってくるから」
「うん、絶対だよ!」
「もちろんだよ、大和君」
笑顔でそう答えてみせると、葵はもう一度勝弘の方を向き直って、
「それじゃあ行くよ……!!」
ドン!
足で地面を蹴って、その後は羽根を使って低空飛行。
勝弘は、その攻撃を待ちかまえるかのように、その場に立ったままだった。
「……ハッ!」
光の弾が、何十発……いや、何百発と誕生する。
これにはさすがの勝弘も驚いて、対応に移る。
「遅い……!!」
「!?」
瞬間。
葵の放った弾は、勝弘の身体に何十発も当たっていた。
逸れた弾は建物に着弾した後に……その姿を消していた。
「消えた? あれだけの威力のある弾なのに、どうして……?」
「あれは、敵意ある者にしか当たらない攻撃というわけだ」
「敵意ある者にしか当たらない攻撃……? つまり今は下柳が葵に対して敵意を向けているから、葵の攻撃はアイツにだけ当たるということか?」
「その通りだ」
大地が分かりやすいように解説を加える。
瞬一はそのことに感心しながらも、もう一度葵達の方を見た。
「さすがは光の器だ……短時間とは言えそのような力をつけてくるとは」
「もうそろそろ降参した方がいいんじゃない? そのままだと残りの魔力の量も底を尽きちゃうよ?」
「冗談はその姿だけにしろ。我よりも早く魔力を失うのは、そなたの方ではないのかね?」
「……行くよ」
勝弘の言葉を無視して、葵はさらに攻撃を重ねる。
魔力で作った弾丸を……右に、左に、放出していく。
何発かは勝弘に当たっているが、その他は建物に当たっては消えて行く。
やがて、勝弘も反撃に移った。
「いつまでもやられっぱなしだと、こちらとしても他人に向ける顔がないからな―――!!」
勝弘は、今まで溜めていたものを晴らすかのように、鎌を思い切り葵に向けて投げつけた。