26,覚醒する力
葵は、無数の魔法陣を展開させ、そこから小さな光の槍を出現させる。
右手を軽く勝弘の方へと向けると……一気にその槍を放出した。
「はっ! そんな飛び道具……通用するかよ!!」
勝弘は、同じように無数の魔法陣を展開させて……同じだけの数の闇の槍を出現させる。
それを葵が撃ってきた場所とほぼ同じ位置に……放出した。
ガキャッ! と激しく激突する二つの槍。
それらが激突する度に……辺りにはさらに混沌が増加していく。
「……大和、いつでも退避準備は出来てるだろうな」
「……一応そのつもりだけど、もしかして森谷、この状況がどうなっているのか分かっているのかい?」
「ああ。このままだと間違いなく……混沌が生まれる」
混沌。
それは光の力と闇の力が極限までぶつかり合った結果生まれるスペースのことで、これに巻き込まれてしまったら、魔力消費が一段と増していくのだという。
通常魔術を使うだけでも、相当の魔力消費を必要としてしまう……それが混沌なのだ。
「早く戦いを終わりにしちまえよ葵!」
「いや……互いの力は互角だ。若干葵が押しているかもしれないけど、この勝負、最後まで分からないよ」
葵にそう言った晴信に対して、大和が冷静に言葉を選ぶ。
瞬一は、ただただ二人の戦いを見守っているしかなかった。
「……待ってるからな、葵。アイツらだって、ベッドの中でお前の帰りを待ってるんだからな……!!」
思い出すのは、アンジック病で倒れてしまった、春香・優菜・刹那・啓介・織などの、今頃は病院に搬送されているだろう人々。
彼らの為にも……そして何より自分達の為にも、葵には帰ってきてほしいと瞬一は考えていた。
「こ、この戦い……かなり壮絶だね」
瞬一の隣にいる蜜柑が、思わずそう呟いていた。
「さて……そろそろリミッターを解除させてもらうとするか……」
「え?」
勝弘がそう呟いたので、葵は思わず聞き返してしまう。
何事かと考えていたら……何と、勝弘の背中からも、羽根が生えてきたのだ。
葵の光の羽根とは対照的な、黒くて禍々しい形をした羽根。
それこそまさしく……悪魔の羽根だった。
「ここまで来たんだから、ご期待に答えて鎌でも作ってやった方がいいか?」
ゆがんだ笑顔を見せた後に、勝弘は両手を自らの身体の目の前に突き出して、何やらぶつぶつ呟く。
瞬間、目の前に黒い魔法陣が出現し、そこから現れてきたのは……鎌だった。
「さて、これが神話にも登場するような、一般的な人間達の悪魔のイメージだったっけな。一般的な天使を司る存在が我の目の前にいるのだから、我もそうでなくてはならない」
「……魔力がさっきよりも上昇している。私の魔力なんかじゃ比にならない……!!」
「さて、ここからが殺し合いの始まりだ……アンコールは一切受け付けない、一回限りのスペシャル公演!! どうぞお見逃しのないよう、その目にしっかりと焼きつけて今宵はお帰り願います……もちろん、行きつく先は地獄、ですが」
そう告げた瞬間。
勝弘は羽根を使って葵の方へと飛び……その鎌を思い切り振り上げた。
「くっ! 守れ壁よ!!」
とっさの判断で、葵は光の壁を出現させる。
……しかし、魔力の力の問題で、その鎌は、壁に勝ってしまった。
「なっ!?」
「……失せろ、天使になりきれなかった存在よ」
そう呟き、勝弘は……葵の身体を、斬り裂いた。
「あ、葵ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「そ、そんな……一瞬ですって……あの細川先輩、が?」
瞬一達は、かなり驚いていた。
なぜなら……先ほどまで互角だった相手に、たった一発の攻撃で、葵が仕留められてしまったのだから。
「さて、そろそろ貴方方もお帰りの時間だ。とっとと地獄の底へ落ちやがれ!!」
そう叫んで勝弘が瞬一達に襲いかかろうとした、その時だった。
「まだ……戦いは終わってないよ、悪魔」
葵の声が、耳に入ってきた。