22,動機
男達に連れられて、瞬一達はとあるビルに来ていた。
そこは立派な高層ビルで、とてもじゃないが何かしらの組織のアジトとは到底思えないような代物だった。
普通にここが何かしらの会社が入っているといわれても納得がいくくらいのレベルだった。
途中で大和や蜜柑達とも合流した瞬一達は、男の後をついて行く。
ビルの中は、やはり普通のものだった。
オフィス等があったりと、まるで本物の会社のよう。
ただし、そこに人はおらず……他に人気のありそうな場所はどこにもなかった。
エレベーターは動かない為、階段で上下階の移動を行うこととなる。
多少重い足を何とか奮い立たせ、瞬一達は階段を登る。
「どのくらいかかるんですか?」
アイミーンが先頭を歩く男にそう尋ねる。
すると男は、
「もうまもなくつくはずだ……それまで少し黙ってろ」
「は、はい……」
すごまれて、アイミーンはその後の言葉を繋げることは出来なかった。
それだけ先頭を歩く男から発せられた殺気というものが、凄かったのだ。
不満を隠し切れない様子の晴信だったが、瞬一によってそれを抑えられる。
「ついたぞ」
やがて一つの部屋にたどり着いた。
そこは……何かの会議室みたいなスペースだった。
「ここに……君達のリーダーがいるんだね?」
確認をとるように、大和が尋ねる。
男は無言で頷くと、ドアをノックして、
「俺です。入ってもよろしいでしょうか?」
扉の向こうにいる人物に、入室許可を求める。
しばらくして、
『……ああ』
短く、そう返事が返ってきた。
男は黙って扉を開け、瞬一達を誘導した。
会議室の中は、思いのほか広かった。
中央に机とイスがいくつか並べられていて、真正面に大きなスクリーンが用意されている以外に、他に不必要なものは置かれていなかった。
「……お前達か。俺達のことをかぎまわっていたという連中は。ここに来たってことは、俺の部下はお前達に負けたということだよな?」
「……面目ないです」
「いや、構わない。人数だけじゃあ勝負にならないからな……それこそ、確実に、完璧に勝ちたいのなら、一人に対して十人二十人は伊達じゃないからな」
慰めているようには聞こえないが、とりあえずリーダーの男―――下柳勝弘は、無表情のままその言葉を述べた。
男はそれに対して、感謝の言葉を述べてから、
「……お前はとりあえず下がれ」
「分かりました」
勝弘がそう言うと、男は会議室から出て行った。
……しばらく、無言の時間が流れる。
やがてその静寂に耐えられなくなった月夜が、
「……貴方が、今回の事件の首謀者?」
と尋ねていた。
あまりにストレートすぎる質問に少し勝弘はたじろぐが、
「そうだ。今回のアンジック病騒ぎは、俺達が仕掛けたことだ」
「けど、どうして……どうして科学製品に『アンジック』なんてコンピュータウイルスを……?」
それはその場にいる誰もが気になっていたことだった。
事件を引き起こすからには、何かしらの動機があるはず。
その動機を聞きたくなるのは……人間として当然の反応であった。
そして勝利にも、この事件を起こした動機が何なのかを話す義務がある。
……しばしの沈黙の後、勝弘は重い口を、開いた。
「……俺の両親が『アンジック』の開発途中に倒れたということは知ってるな」
「……ええ、知っておりますわよ。その話なら、瞬一先輩達から聞きましたわ」
勝弘の言葉に、千世が答えた。
「俺はあの日……どうして両親が死ななければならないんだと疑問に思った。別に死ぬのは俺の両親じゃなくてもよかったはずだ……なのにどうして、死ななければならなかったんだ……考えた末に俺が導き出した結論は……そもそも人間が生み出してしまった科学製品の存在にたどり着いた」