19,十字路
「いくら勢いで飛び出したとしても、全然見つからないものなんだな……」
「そもそも、相手の姿形が分からないのに、どうやって見つける気だったんだよ」
呟く瞬一の言葉に答える晴信。
彼らは、たとえ犯人の名前を知った所で、特にこれといった特徴を掴んでいるわけではない。
分かっているのは……その人物がコンピュータウイルス『アンジック』を開発した研究者の息子であるという情報だけ。
協力者であったクリエイターとスクリプターが没している以上、『アンジック』についてのことを知っているのは、もはやこの人物以外ありえない。
この実験は秘密裏に行われていた為、ほとんど口外していないとの話だったので、実は当時同じ研究所で別の研究をしていた研究員でも、知らない人がかなりいたのだ。
「というか、当時の研究員だってどこにいるか分からないよね?」
「……完全に行き詰った」
だから葵と月夜がこのように言葉を漏らすのも当然のことであった。
とりあえず大和と大地の二人はもう一度『組織』の建物周辺を探すことに決め、瞬一達はこうしてしらみつぶしに相手のアジトを探していくだけであった。
生徒会のメンバーは、蜜柑・将太の二人は瞬一達と同じくアジト探しを。
光利は一人学校に残り、連絡係兼ネットを使っての捜索活動など。
「まだ生徒会の連中からの連絡はなしか……」
「どうしますの? このままだと何の収穫もなしに終わってしまう可能性もあるのでは?」
「……そうですね。しかし、今ここで何人かに分かれての捜索活動をするのはあまり得策ともいえないですし……もし相手に調査されていることがバレてしまったら、私達に攻撃してくるでしょうから」
瞬一が連れてきた千世の言葉に、アイミーンが冷静にそう言った。
……今回の捜索活動は、相手からの奇襲攻撃が来ることも眼中に入れたものだということらしい。
「面倒だなぁ……たとえそいつらが俺達の邪魔をしようとも、この俺が必ず……!!」
「お前は黙ってろ」
何故かついてきていた小野田に、晴信はきっちりとそう言い切っていた。
「なっ! 数は多い方がいいって言うだろ!? 今は他の奴らが倒れているんだ。あまり贅沢なことはいえないはずだぜ?」
「……晴信の言う通りだ。戦力になりそうな奴らは、今みんなアンジック病にかかってしまい、倒れたままだ。こうなってしまった以上、小野田の協力は必要不可欠だ……」
多少納得はいかないながらも、瞬一はそう呟いていた。
瞬一の言葉を聞いて、小野田が胸を張りながら、
「そら見ろ! 俺の協力が必要不可欠だとよ!」
「瞬一が言うなら仕方ないよね……そしたら、お前は敵が来たときの壁役としてきちんと役目を果たせよな」
「おうよ……って、何でまた俺壁役!?」
危うく晴信の言葉に返事をしそうになった小野田は、慌てて軌道を修正して、逆にその言葉に突っ込んで見せた。
しかし当の本人である晴信は、そんな小野田のことを無視している様子だった。
「……ところで、さっきから何かを感じない?」
「……へ? 何言ってるんだよ、月夜」
その時。
月夜がこんなことをボソッと呟いていた。
隣にいた瞬一が、まるで認めたくないかのような表情を見せていた。
だが、月夜は更にこう付け加える。
「……いる。誰かが私達のことを見てる」
「……!? 魔術の気配です!!」
「何だって!?」
アイミーンの叫びからおよそ数秒後。
炎の魔術が、瞬一達目掛けて飛んできた。
「ちっ! 聖なる壁よ、我らを守れ!!」
瞬一はそう詠唱すると共に、その魔術攻撃を防いだ。
……そして、炎の魔術が撃たれた方向から、謎の人物が一人現れる。
更に、ふと後ろを振り向いてみると、もう一人。
ここが十字路ということもあって……左右からも一人ずつ歩み寄ってきていた。
「……だ、誰だよお前達」
「俺達か? 俺達はお前達がかぎまわってる組織のメンバーだよ」
瞬一の問いに、男達はこう答えた。