17,ある研究者
「アンジック病を広める? それって一体どういうことだ?」
科学製品工場の襲撃事件とアンジック病患者の多発がイマイチ理解できていない晴信は、思わずそんな声を挙げる。
……それと同時に、瞬一はその関連性に気付き始めていた。
「アンジック病の患者として挙げられるのは科学魔術師の奴ら……そして、何者かが襲った場所は、科学製品工場……」
「そもそもアンジック病は、科学製品内に潜伏するコンピュータウイルスだったんだ」
「な、何?」
大和の言葉に、晴信はさらに混乱していた。
アンジック病がコンピュータウイルス……そんなこと、聞いたこともない事実だったからだ。
「どういうことなのか……説明してもらえますか?」
アイミーンが真剣な表情で尋ねる。
……大地と大和は互いの顔を見つめ合い、ことを察したのか、二人とも交互に説明を始めた。
「アンジック病と呼ばれるきっかけとなったのは、とある研究者がその病気に偶然かかってしまったことから始まったらしい。その研究者が開発していたのは……対科学魔術師用ウイルス『アンジック』だった」
「このウイルスは、使用者が手にしている科学製品を使用不可にするというものだった……しかし、開発を進めて行く上で、その研究者の持つ科学製品にもウイルスが伝染していることが分かった。その研究者は自分でも使ってみて実験が成功しているかどうかを確かめる為に……その科学製品を使って魔術をいくつか発動させた」
「ところがいくら経っても全然使用不可になることはなく……特にこれといった異常はみられなかったんだ。だけどある日……事件が起きた」
二人はそこで一拍置くと、その後で再び話し始めた。
「その研究者が改良を何度も加えたウイルスを自らの携帯に感染させ、何度も何度も魔術の発動をしていたら……とうとうその研究者は倒れてしまったんだ」
「研究所内は騒然とした。なぜならコンピュータウイルスの研究をしていたのにも関わらず、何故か人体に影響を及ぼすことになったんだからな……そしてその症状こそが、『アンジック病』の症状その物であり……魔力の複製が出来なくなった結果、生命力を使って魔術を発動してしまうという、例のあの症状だ……」
「その研究員は、すでに生命力も空に近かった……魔力は回復するとしても、失った生命力は回復することはない……生命力=魔力という方程式が生んだ、最悪の末路だね」
「……その研究員は、どうなったの?」
月夜が尋ねると、二人は答えにくそうな表情を浮かべて、
「……死んだんだな。『アンジック病』が原因で魔力が複製出来ないのにも関わらず、その後もその実験を続けようとしたんだろ? 自分の理論が正しいことを証明する為に……」
「……瞬一の言うとおりだよ」
観念したとでも言いたげな表情を浮かべ、大和が瞬一に素直に感心していた。
大地は、両手を上にのばしてから、
「で、ここまで来て関連性は分かったか?」
「……ああ、おかげさまでな」
「え? 何か関連しそうなことなんてあったのか?」
……どうやら晴信だけが何が何だか分かっていないらしい。
アイミーンや葵、月夜達は分かっているようだが……もちろん瞬一もだ。
「しゃねえな……」
そんな晴信のことを漏らしながら、瞬一は言った。
「アンジック病というのが、科学製品を介して発生する病気だ。だから感染者には科学魔術師しかいない……だがそもそもこのアンジック病というのが、『アンジック』と呼ばれるコンピュータウイルスに科学製品が感染していないとかからない病気だ……つまり、奴らが科学製品工場を襲撃した理由というのが……そのウイルスを科学製品に感染させて、その科学製品を使用した奴らがアンジック病に感染するように仕向ける為ってことだ!!」
「……生徒会にこのことを伝えないと……!!」
瞬一達は、この事実を生徒会のメンバーにも伝える為、教室から出て行って、いそいで生徒会室へと向かった。